きょう10月26日は「原子力の日」である。これは、1956(昭和31)年に日本が国際原子力機関(IAEA)憲章に署名し、また1963年に日本原子力研究所の動力試験炉で日本初の原子力発電に成功したのが、それぞれこの日であったことから、1964年に政府が制定したもの。以来、原子力発電への関心と理解を深めるため、関係する機関や企業などが記念行事を行なっている。いまから40年前の1977年には、科学技術庁(現・文部科学省)の発行した原子力の日のポスターが話題を呼んだ。そこには若い男女が抱き合う写真に、「無関心?無関係?」というキャッチコピーが掲げられていた。
このポスターを手がけたのは、当時、営団地下鉄(現・東京メトロ)のマナーポスターが人気を集めていたグラフィックデザイナーの河北秀也(当時30歳)である。きっかけは、時の科学技術庁長官・宇野宗佑の発案で設けられた「科学技術お茶の間懇談会」という会に呼ばれたことだった。科学技術について一般への理解を深めるための知恵を、識者から募るという趣旨のこの会の席上、河北は宇野から直々にポスターの制作を依頼されたという。
日本では、1966年に日本原子力発電の東海発電所(茨城県)で国内初の商業ベースでの原子力発電が開始され、すでに77年までに、総電力出力の約7%を原子力が占め、その発電量はアメリカとイギリスに次ぎ世界第3位となっていた。しかし河北がポスター制作にあたり、科学技術庁の普及啓発課のデータを見せてもらったところ、じつに日本人の7割がそうした事実を知らず、原子力発電はまだ実験段階だと思いこんでいることを知る。
河北は、事実を知らないことこそ問題であると考えた。日本の将来にはたして原子力発電はいるのかいらないのか、議論しなければ大変なことになると思ったという。ポスターに男女のラブシーンという、いささかセンセーショナルな写真を用いたのも、いかに人々に目を向けさせ、議論を喚起するのか考えた結果、出たアイデアだった。「無関心?無関係?」のコピーは、原子力発電の問題はあなたたち恋人にもけっして無関係ではなく、無関心のままではいられないとの意味合いをこめてつけた。だが、河北に言わせれば、あくまで「このポスターはラブシーンがすべて」であった(河北秀也『河北秀也のデザイン原論』新曜社)。
ポスターは2万枚が発行され、河北の思惑どおり、大きな反響を呼んだ。福島第一原発事故を経た現在、原子力発電を取り巻く状況は大きく変わったとはいえ、このポスターに込められたメッセージはいまなお有効ではないだろうか。