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大谷の打撃の秘密は「捻転力」

 日本人メジャーリーガーでは、イチローが日米通算4367安打を積み上げ、プロ野球における通算安打の世界記録を樹立した。読売ジャイアンツ時代に3度の本塁打王に輝いた松井秀喜氏は、メジャーでは自身を「中距離打者」と評したといわれる。そのなかにおいて大谷は2021年5月18日時点で、両リーグを通じて本塁打数で単独トップに立つなど、長距離砲として存在感を示している。

「本当は、イチローさんも長打が打てる打者なんですよ。だけど、イチローさんは徹底的に1番打者、ヒットメーカーに徹した。イチローさんほどのレベルにまで達するとヒットも評価されるのですが、いまのメジャーのトレンドでは長打が打てないとなかなか厳しい時代になってきました。長打を打たないと、なかなか攻撃の起点になりづらい。捕手の肩が強いし、投手のクイックが速いので盗塁が減ってきています。だからこそ盗塁の意識が大事なのですが、いまのメジャーの評価傾向は長打を打てる打者、ですね」

 だからこそ、大谷のすごみが際立つのだ。

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©文藝春秋

「そのなかでも、大谷さんはトップクラスの選手。投手でもすごいですし、打者としては長打もすごい、足だって速い。そして、ひと振りで点が取れる打者だからこそ需要があるわけです。メジャーの投手から打つのは本当に大変。打てなかった僕が言うんだから間違いないですよ(笑)。大谷選手の特徴としては、とくに体を捻転させる(ねじる)柔らかさがすごいと思いますね。その捻転する力も強い。少々差し込まれても、体を自分で逃がしていって強い打球が打てる。それもあって、メジャーの投手を相手にポイントを近くしてもなんとか体をずらして対応できる。脇周りの筋肉が柔らかいと思うんです」

 投打のタイプ以外にも、日米球界の違いはある。そのひとつがメンタルトレーナーの存在だという。

「メジャーの球団には、各チーム5人くらいメンタルトレーナーがいます。この点は日本とはかなり違うところ。メンタルコントロールは自分ではやりづらい人もいるので、メンタルケアはかなり大事なんです。ポイントは『落とす』こと。メンタルを上げることはみんなやっているけれど、試合が終わったら上がったのを落とさないといけない。上がりっぱなしだと壊れちゃうわけです。1回落としてリラックスすれば、今度は上がっていくのですが、この落とす作業がとても難しい。落としすぎるとケガをしやすいし、パフォーマンスに影響が出るので、うまく落とすことを考える。僕はジョー(・マドン監督)のところにいた時にそれを学んだので、いまもエンゼルスにはメンタルトレーナーがいるはずです。いま、大谷選手のメンタルも、そのおかげで保たれてるのではないかと思いますね」