45歳まで選手としてグラウンドに立ち、監督としても活躍を続けた野村克也氏。長年にわたって野球界に関わり、数々の一流選手を間近で目にしてきた男は大谷翔平のMLB挑戦をどのように見守っていたのか。
ここでは、大谷翔平関係者のさまざまな証言を集めた『証言 大谷翔平』(宝島社新書)の一部を抜粋。宝島社編集部が聞き手となってまとめた、野村克也の生前の“ぼやき”を紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)
※本文中敬称略
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一本に絞るなら絶対に「投手」
監督としてリーグ制覇5回、日本一3回。いち早くデータ重視のID野球を取り入れるとともに「野村再生工場」と称されるほど選手育成に長けた名将をして「これだけの結果を出しているからには、やはり二刀流で使いたくなる」と言わしめる大谷。それでも、仮にどちらか一方に絞るとしたら「断然ピッチャー」だと野村は断言する。
「やはり野球はピッチャーだからね。0点で抑えれば100パーセント負けはないし、10点取っても11点取られれば負ける。だから、やはり野球はピッチャーですよ。ピッチャーは自分がボールを持っているから好きなところへ好きな球を投げられる。それに対して打者は受け身だからね。攻めの投手と受け身の打者、そのどちらが向いているかは大谷自身の性格も関係してくるんだろうけども。
ピッチャーに専念すれば、もっとすごいレベルまでいけるかもしれないし、バッターとして出場することが投手・大谷の邪魔になるのかもしれないけど、実際に二刀流の影響がどこまであるのかは大谷本人にしかわからない。我々の時代には、いくら投打ともに才能があっても打者にはあとから転向すればいいというのが常識だったけど、いまの時代はそれが通用しなくなったということなのかもしれないしね。
ソフトバンクの柳田(悠岐)なんかにしたって、あんなアッパースイング……実際にスローで見るとインパクトの瞬間にはレベルスイングになっているようなんだけど、ダウンスイングで鳴らした王が、よくあれを許しているよなあ。大谷の二刀流と一緒で、我々の常識からは外れていても、結果が出ているから認めざるを得ないということなのかな。すごい時代になったもんだよ。
あと、いまは160キロの球を投げたとか、そういうことが話題になっているようだけど、スピードを追求することについてはあまり感心しない。これも俺の持論だけど、ピッチャーはスピードよりもコントロールだよ。長い間キャッチャーをやってきてそう思う。150キロのど真ん中と、130キロの外角低めとではやっぱり150キロのど真ん中のほうが打たれるのが野球なんだから。コントロールをよくするためには投げ込みも必要だろうけど、それよりも投げ方ですよ。バランスのいいフォームで投げることが大事。じゃあ大谷はどうかと言えば、通用しているんだからいいんじゃないの?」