初めて感じた胎動は、泡がはじけるのによく似ていた。
それはいつしか蹴られる感覚に変わり、産み月になると脇腹の隅っこまで届くようになる。
妊娠で体が変化するのと同時に、世間では新型コロナウイルス感染症の流行で生活が変わっていた。
妊娠中は感染に対して神経質に
2021年3度目の緊急事態宣言下に、私は34歳で第一子を出産した。
ライターが生業で、幸いなことに感染流行と共にオンライン取材が増えていた。最後の対面取材は2020年11月。東京都の感染者数が連日300人を超えた頃だ。それからはオンライン取材のみに仕事を絞った。
私は感染してお腹の赤ちゃんを失うのが怖かった。もし何かあったら、新型コロナウイルス感染症との因果関係を医師に否定されたとしても、私は自分を許せない。
だから日常生活ではなるべく買い物を避け、外出しなければならないときは消毒を徹底し、帰宅後はシャワーを浴びた。さらに、購入した日用品は消毒し、外で着た上着は部屋に入れず、帰宅後の床も消毒。人に話せば引かれる自覚があるほど、神経質になっていた。
妊娠中、最も言った言葉は、「赤ちゃんに何かあったら、どうするの」かもしれない。
マタニティ旅行は諦めた。楽しみは散歩だけだ。自宅を起点に、四方八方歩きに行った。こんなにご近所に詳しくなったのは初めてだろう。
県外の結婚式に参列するか否か
散歩は意外と楽しく、コロナ禍でも妊婦生活を満喫していたが、感染を気にして夫と衝突することが多かった。
最も激しく衝突したのは、夫が県外で催される結婚式に招待されたときである。しかも年末。東京都は感染者数が1,000人に近づいていた頃だ。
日に日に増える感染者数を見て、私は出産まで無事に過ごせる自信がなかった。もし通院する病院でクラスターでも発生したら……。心臓がバクバクした。
だからなおさら、結婚式に出席すべきかどうか夫婦で悩んだ。祝い事だ。本当なら私だって、「いってらっしゃい」と快く送り出したい。でも披露宴はどうだろう。人が集まって飲食をするんだ。感染リスクは高くないかーー。
「コロナ禍前なら、悩む必要なんてなかったのに」。心の底からコロナウイルスの流行を恨んだのは、これが初めてだった。
最後には、返信ハガキを出す郵便ポストの前で、互いに思っていることを言い合った。それもかなりケンカ腰に。結局ぎりぎりまで悩んで、夫は行くことを辞めた。
結婚式は人生の門出だ。出席したほうがよかったのかもしれない。今でも「あの頃の選択は正解だったのか」、ふと頭をよぎる。