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34歳初産「もし感染したら、私は自分を許せない」 コロナ禍の“出産”と“ワクチン接種”のリアル

2021/07/11

陣痛の合間にPCR検査。出産時はマスクを着用

 私たちも感染対策をしていたが、病院も徹底していた。両親学級は中止。病院に来る人を減らすため、妊婦健診も出産も付き添いはなしだ。

 両親学級の代わりに企業が主催するオンライン講座を受講した。けれど、家にあるカワウソのぬいぐるみを相手に抱っこの練習をしたところで、役に立つのかは疑問だった。

赤ちゃんの代わりを務めたカワウソ (写真:筆者提供)

 いよいよ陣痛が始まり入院が決まると、PCR検査が実施された。もし陽性の場合は帝王切開に切り替わる。祈るような気持ちで鼻の奥に突っ込まれる長い綿棒を見つめた。

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 幸いなことに結果は陰性。けれど、偽陰性もあり得るから気は抜けない。

 出産中はマスクを着用しなければならない。意識がもうろうとし、「暑いからマスクを取りたい」と何度も思った。いきみ逃しをする度に、今まで経験したことのない大声が出る。「こんなに叫んだら、マスクの意味がないんじゃないか」と冷や冷やした。ひょっとすると、ずれていた瞬間もあるかもしれない。

 不安で仕方がなかった出産も、助産師に励まされるうちに進んでいく。頼れる相手はこの人たちしかいない。

 陣痛促進剤を投与し、帝王切開の可能性があるため絶飲食したものの、無事に経腟分娩でお産。産後、後処理をする医師や助産師に、「途中、マスクが外れていたかもしれません。すみません」と謝った。医師は縫合する手を一瞬止めて言った。

「産むときにマスクなんて、無理だよね」

 自分のしてきた感染対策が、医師たちの役に立ちますようにと願った。

 LDR(陣痛、分娩、回復を同じ部屋で行う)での出産だったため、入院中の面会は禁止だが、産後2時間以内であれば夫が会いに来られた。

泡のような胎動だったのに、元気に誕生。我が家も騒がしくなった (写真:筆者提供)

コロナ禍の妊娠・出産は相談相手をたくさん見つけて

 コロナ禍の妊娠・出産を経て、“孤立”がどれだけ自分の心を蝕むかがよくわかった。

 とくに産後だ。コロナ禍で親族が手伝いに来られなかったので、退院後は在宅勤務の夫と3人での生活。産後の体の回復のために、料理や掃除、育児などをお願いできる産後ドゥーラ(助産師などの指導を受け、産前産後の家族をサポートする専門職)を依頼した。週に1~2回、手伝ってもらっている。

 それでも、赤ちゃんが大泣きする日が続いて、心のバランスを崩してしまった。おむつを替えても、お腹を満たしても、抱っこしても、泣き止まないのだ。あまりにも泣き声が辛くて、朝の4時に私も声をあげて泣いた。寝ていた夫が飛んできたけれど、夫も育児は素人だ。3人で途方に暮れるしかなかった。

「誰かに助けに来てほしい」

 弱り切った私は、夫との話し合いの中で涙を流しながら何度も言葉を漏らした。