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 朴前大統領の発言と弁護団の辞意が物議を醸した翌日(10月17日)には、今度は拘置所での人権侵害問題が浮上した。

 米CNNが「朴前大統領の国際法務チームのMHグループが、朴前大統領が拘置所で深刻な人権侵害に遭っているとして国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)に報告書を提出する予定」だと報道したのだ。

 同グループは、死刑宣告されたリビアの独裁者カダフィの次男を弁護し釈放に持ち込んだ国際的な法務集団で、朴前大統領の在米の支持者たちが7月に依頼したことが判明している。

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「MHグループの件については、朴前大統領の弁護団も知らなかったと言っていますが、同意なくやったとは思えない。

 勾留期限が守られるかどうかを見極めて、国際世論に訴える意味で勝負に打って出たとみられています」(同前)

 拘置所での人権侵害として挙げられた内容は、「汚く冷たい部屋」「ずっと電気がついているため寝られない」「適切な寝台で寝られず慢性疾患を患っている」、そして「適切な治療が受けられていない」というもの。

 拘置所側は、「トイレや洗面台を含み10平方メートルほどの6、7人使う部屋を使用」し、「治療も定期的に行われていて、オンドル(床暖房)も使用している」と即座に反論している。

法廷に出席する朴前大統領 ©getty

弁護士は「この裁判は異例続き」

 朴前大統領は満を持して勝負に出たのかもしれないが、世論の反応は寒々しい。

 文在寅大統領の支持者層は「粛々と裁判を受けている姿に少なからず同情する気持ちがわいていたが、無責任にも裁判をボイコットし、拘置所でも特別待遇されていることが分かってあきれた」と一蹴。保守系の元支持者(50代会社員)でさえ、「裁判は公正に法に則って進行されるべきですが、それを訴えるならば最初から発言すべきでした。拘置所の人権侵害告発の内容もあまりにお粗末で驚きました。お姫様と揶揄されてもしようがない」とあきれる。

 一方で、刑訴法に詳しい弁護士は、「この裁判は異例続き」と嘆いた。

「刑事事件での公判は、判決を早めるために1、2週間に1度開かれることはあっても、週に4回開くことはあり得ません。さらに、刑事事件の勾留期限が満了となったのは、検察側の責任です。期限を延長することは『身柄不拘束』の原則に反している。法治国家としてあるまじきことです。

 朴前大統領は、勾留期限が異例に延長されたことで、真摯に裁判をやっても結果は決まっていると判断し、不公正な裁判であることを国民に伝えようと思ったのでしょう。

 ともかく、この裁判の焦点は、贈収賄があったのかどうかだけです。もし、それが証明されないのであれば、現政権や世論の圧力に屈せず無罪とすべきです。

 裁判官も自分が生き残るための裁判をやってはいけないことを重々承知しているはず。それでも今の流れを見ると結局、結果は決まっているともいえます」

 辞任した弁護団に代わり、朴前大統領には5人の国選弁護士がつくことになった。しかし、朴前大統領は裁判に出廷する意志はないとみられ、被告不在で裁判が進むようだ。

 いずれにしても、どんな結果であろうと、保守VS進歩のフレームの中でまたひと波乱起きることは間違いない。

 16日の公判前、朴前大統領は、「20年、30年の刑でも構わない。この国を正しく建て直すことが重要だ」と担当弁護士に話したというが、まるでブラックコメディだ。

 現実は、国民の心はすでに朴前大統領から離れ、保守政党内では「朴前大統領派」と「朴前大統領に脱党を促す派」の醜い対立が続いている。

 朴前大統領はさらなる孤独の底に沈んでしまったかのように見える。