いま求められる新しいモデル
堀内 今はケアも商品化されていて、お金持ちであればなんでもお金で買えますという社会になっていますね。けれども一方で、お金を稼ぐしか自分を守る術がないというのは、恐ろしいなと感じます。かつてのサラリーマンは会社に守られていましたが、いまや日本の会社システム自体が壊れはじめています。もはやわれわれには、愕然とするくらい拠って立つものがない。そのため、地域社会をはじめとするコミュニティを取り戻そうという動きも出てきていますね。
斎藤 まさにその通りです。さらに言うと、男性正社員中心の会社コミュニティや、若者を排除し女性に負担を強いるような年長男性のための地域コミュニティとは違った、新しいモデルが求められています。いま注目しているのが、バルセロナ市政などが旗振り役になっているミュニシパリズム(自治体主義)です。これは5冊目に挙げた『なぜ、脱成長なのか』(ヨルゴス・カリス他著)にくわしいです。
堀内 ミュニシパリズム、ですか。
人々の〈コモン〉(共有財産)を増やそうとする挑戦
斎藤 EUという巨大組織の新自由主義的な動きに対抗して、住民のための街づくりをしようという革新的な自治体の運動のことです。
たとえば、スペインのバルセロナは、リーマンショックで打撃を受け、さらにはオーバーツーリズムによる物価上昇で市民は疲弊していましたが、大企業に地域の富を吸い取られるだけの社会を変えたいという市民運動が巻き起こり、その運動をベースにした地域政党の女性市長が2期目に入っています。
『人新世の「資本論」』でも紹介していますが、彼らの取り組みはたとえば、水道の再公営化を目指すことだったり、民泊に規制をかけ公営住宅を増やすことだったりします。人々の〈コモン〉(共有財産)を増やそうとする挑戦ですね。また、気候危機に関しても独自の非常事態宣言を発出し、二酸化炭素排出量削減のために、飛行場の拡張や高速道路の新設を禁止し、市内中心部でも自動車の進入できないスーパーブロックを拡充するなど、将来世代のための革新的なチャレンジをしています。
こうした試みの知恵をアムステルダムなど別の大都市とも共有しながら進めているのがミュニシパリズムです。
堀内 戦後、アメリカという教師を表面的に真似して、トクヴィルが『アメリカのデモクラシー』で指摘したように、資本主義の本場であるアメリカでもそれなりにコミュニティが残っているのに、それ以上にコミュニティを消失してしまった戦後の日本に戦慄していたのですが、バルセロナの話を聞いて希望を持ちました。
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