今は最初の頃の漫画は見たくないですね
――でもそうではなかったと。
伊奈 私の場合、美大といっても通信制なので誰でも入れるんですよ。絵が描けなくても入れる。私は、美大に入る前に絵を描いたことがまったくなかったですから。
――では、なぜ美大に入ろうと思ったんですか?
伊奈 家から近かったからです。
――そうなんですか(笑)。
伊奈 20歳のときに通信制の高校に入って、その途中で子どもを生んで入学4年後に卒業しました。それから大学に行きたいと思ったんですが、選択肢が少ないんですよ。
――子育て中だからですか?
伊奈 そうです。保育施設があって、家から自転車で通える距離で探すと、私が通った武蔵野美術大学くらいしかなかったんです。
――では、絵が得意だからではなく、家から近くて保育施設があることで選んだので、絵が描けるわけではないと。
伊奈 そうなんです。
――では、その編集者の「漫画くらいは描けるだろう」というあては外れたということになりますが、実際に連載は始まったわけですよね。これはそこから練習をされたのですか。
伊奈 そうですね。それから1年弱くらいですね。絵の描き方とか、話の作り方を練習しました。それで連載が始まったのですが、今は最初の頃の漫画は見たくないですね。
――そうなんですか(笑)。でも、ちゃんと漫画になっているじゃないですか。
伊奈 いやあ、見たくないですよ。
――どういうところが?
伊奈 全部ですね(笑)。
『将棋の渡辺くん』の1巻にも《最初の頃に描いたの読むのほんと恥ずかしい……》というコマがある。単なる一読者としては、それほど気にならないような感じもするが、ご本人は気にしているようだ。
こうして2013年から『将棋の渡辺くん』の連載が講談社から発行されている『別冊少年マガジン』で始まった。インタビューの後編では、その内容について聞いていきたい。
(撮影:鈴木七絵/文藝春秋)