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 複数の悪俗圏関係者の情報を総合すると、不良警官との仲介者は、ミャンマーやカンボジアに拠点を置く中国人の情報屋たちだ。

 彼らはワイロと引き換えに、中国国内の不良警官に検索させた個人情報を他者に転売している。政治的な動機はなく、本来はスパム業者への転売などを目的に個人情報の収集をおこなっているらしい。

 他の悪俗圏関係者の話によると、特に出入境系統の情報(遠距離交通機関やホテルの利用情報)については、借金取りが債務者を追うために情報屋から買うケースもあるという。ヘタに民間の興信所に頼むよりも、中国公安部が把握する移動データをカネで横流ししてもらうほうが、確実にターゲットを追跡できるわけだ。肖彦鋭は話す。

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中国の警官が持つ移動端末「警務通」。中国のオンライン百科事典『百度百科』の「警務通」のページより。サプライヤーは深圳に本社を置く「世紀安軟」社のようだ。

「やがて習近平の個人情報をもとに、内部リークされた『人口普査』(中国の国勢調査)のデータから、習の娘の習明澤の身分証番号や携帯電話番号を入手した仲間がいた。さらに出入国管理系統のデータからは、習明澤の顔写真と、パスポートや香港マカオ通行証の番号が判明した。まもなく習明澤の携帯電話番号がウェブに晒された結果、彼女の携帯にはネットユーザーからのイタズラ電話が殺到して……」

 明らかになったところでは、習明澤は1992年6月25日生まれ。現在は楚晨という偽名を名乗っており、情報の暴露時点での住所は浙江省杭州市だったという。

真夏の夜の中国夢

「ドキシングの主目的は悪ふざけじゃなく、あくまでも党体制にダメージを与えることだ。党高官や家族の本名とパスポート番号が明らかになれば、アメリカをはじめ海外の情報機関がこれをチェックする。党高官が家族を海外に逃していることや、隠し財産なども明らかになる」

現在でも閲覧できる悪俗圏系とみられるサイト『esu.dog』。後述する華春瑩の詳細な個人情報の暴露などの際どい記述に混じって「真夏の夜の中国夢」なる、日本のアングラネット文化との親和性を感じさせるリンクが……。

 悪俗圏は複数のオンラインの拠点があり、明確な組織は存在しない。肖彦鋭が直接携わった『悪俗ウィキ』『シナウィキ』(いずれも2019年に閉鎖)のほか、在米中国人が運営する『紅岸基金会』、詳細は不明だが旧悪俗ウィキと同名の『悪俗ウィキ(esu.dog)』、香港の政府職員や警官の個人情報を暴露する『老豆搵仔』、大量の中国共産党員のドキシングを続ける『孤児展覧館』など、類似のサイトやTelegramチャンネルが多数存在している。

 ドキシングの手法は「警務通」からの流出のほか、「もうすこし高いレベル」の警察関係者からの流出やハッキング、人肉検索(公開情報の徹底した調査と突き合わせ)などさまざまだ。

 私は先に悪俗圏について「中国版アノニマス」と書いたが、実際はハッキングよりも体制内からの情報流出が多いようだ。なかには、公安部門からデータベースがまるごと流出した事例もあるらしい。

『esu.dog』のリンクから飛べるYouTube動画「野獣先輩習近平説」は再生数18万回(!)。日本のアングラインターネット文化の影響を受けており、往年の2ちゃんねらーやアノニマスに似た集団であることがここからも確認できる。

「華春瑩は英語がヘタだ」

 過去に悪俗圏のドキシングを受けたのは、習近平や習明澤、鄧家貴(習近平の義兄)ら最高指導者のファミリー。習近平の腹心で全人代議長(党内序列3位)の栗戦書とその家族。同じく習近平の腹心で北京市のトップである蔡奇の息子の蔡爾津。新疆ウイグル自治区のトップで少数民族弾圧を押し進めている陳全国などだ。多少は中国に詳しい人なら、目を丸くするような顔ぶれである。