「中国人民はみんな、18桁の身分証番号(ID番号、公民身份号碼)が割り当てられている。このうち、最初の6桁が戸籍登録地の地域番号で、次の8桁が生年月日。残る4桁は認証番号だが、そのうち1桁は性別で決定される。このルールはたとえ国家指導者だって例外じゃない。中国のネットユーザーの間で、習近平の身分証番号が特定されたのは2018年9月のことだった」
目の前の若者が喋り続けていた。彼は中国の反体制的なインターネットコミュニティ(通称「悪俗圏è sú quān」)の主要人物の1人で、広東省深圳市生まれの肖彦鋭(26)という。
彼のかつての仲間だった牛騰宇(21)というハッカーは中国国内で捕らえられ、指の形が変形するほどの壮絶な拷問を受けた末、騒動挑発罪・公民個人情報侵害罪・違法経営罪などを理由に懲役14年の判決を受けた。
いっぽう、肖彦鋭は2018年から日本の関西地方で事実上の亡命生活を送っている。彼は続ける。
「習近平の戸籍登録地や誕生日・性別は公開情報だろ? だから、実は18桁の身分証番号のうちで15桁までは外部の人間でも予測できる。不明なのは残りのたった3桁なんだ。ここまでは簡単で、実は手動でも番号を特定できてしまう。やったのも僕らの仲間とは違う人間だ。重要なのはその先で──」
電車の座席まですべて記録
「中国は監視社会だ」という話はすでにおなじみだ。科学技術の暴走への畏れが薄い社会主義国家のカルチャーと、便利な生活のために個人情報を差し出すことへの抵抗が薄い中国人の合理主義が、史上空前のサイバー監視体制を可能にしてしまった。
事実、中国では全国民にICチップが埋め込まれた顔写真入りの身分証が発行され、その常時携帯が義務付けられている。鉄道・航空機・ホテルなどの利用時に提示した身分証の情報は公安部に送られ、国内移動の履歴はすべて当局に記録される。
たとえば下に紹介する画像は、「悪俗圏」の某メンバーから提供された、出入境系統……つまり、ある人物の移動情報についての流出データの具体的な事例だ。
こちらでは、氏名・顔写真・身分証番号・誕生日・干支・性別・民族区分・結婚状況・旧名やあだ名・身長・身体的特徴・血液型・最高学歴・政治的背景・職業・戸籍上の住所──、といった詳細な個人情報に紐付ける形で、当該人物の移動情報が一括してまとめられている。
すなわち、出入国記録をはじめ、鉄道や飛行機の予約と利用履歴(駅名や空港名・日時・便名・号車や座席番号)、ホテルの宿泊履歴(ホテル名・チェックインとチェックアウト時間・部屋番号)、銀行口座情報などだ。
ほか、中国の警官は最末端の人員にいたるまで、「警務通」と呼ばれるスマホ状の移動端末が配備されている。端末に身分証番号を打ち込めば、クラウド上にあるデータベースから当該人物の戸籍情報や顔写真が表示され、瞬時に相手の身元を調べられる仕組みだ。