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 しかし、アニメ映画と実写映画の違いを考える時、この「12年後」を組み込んだというあらすじのレベルでの違いは、表層的なものでしかない。むしろよく似たエピソードを描く時にこそ、アニメ映画と実写映画のテーマの違いが浮かび上がってくるのである。

劇場アニメ「君の膵臓をたべたい」本予告

浮かび上がる「桜良は何故『僕』とだけ秘密を共有するのか」への答え

 映画脚本の執筆術に「3幕構成」というものがある。これは映画のストーリーを、「物語の導入となる第1幕」「葛藤を中心にドラマが進行する第2幕」そして「最終的な問題の解決が描かれる第3幕」という形で構成していくもの。

 そして、第1幕のラストに、物語の方向を決定づけるエピソード「プロットポイント1」、第2幕には、物語の折り返し点である「ミッドポイント」と、主人公がクライマックスに向けて決断などをする「プロットポイント2」が配置されている。

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 アニメ映画と実写映画を比べてみると、この「プロットポイント1」と「ミッドポイント」の位置に、どちらも同じエピソードが配されている。原作が同じだから当然といえば当然なのだが、映像を丁寧に「読んで」いくと、その同じエピソードであってもちょっとした台詞や演出によってその意味合いが大きく変わっていることに気付かされる。

 プロットポイント1で描かれるのは、桜良は何故親友や恋人に自分の余命を明かさず、「僕」とだけ秘密を共有するのか、という疑問に対する答えだ。原作ではスイーツビュッフェ「デザートパラダイス」に2人で足を運んだ時の会話として書かれている。

 実写映画はこのシーンを、校舎の屋上を舞台にして描いた。「僕」(北村匠海)の「君は本当に死ぬの?」という問いを含む一連のやりとりの中、桜良(浜辺美波)はゆっくりと屋上にある塔屋の階段に向かい、それを登り始める。そして階段を登りきったところで、下にいる「僕」を見下ろして、「いつかみんな死ぬんだし。ほら、天国で会おうよ」と会話を締めくくる。

実写映画『君の膵臓をたべたい』予告

 カメラはあまりカットをわらず、徐々に階段を登っていく桜良をあおりで撮っている。「僕」の視線に相当するカメラアングルだ。そして階段を登りきった桜良の背後に広がるのは真っ青な空。ここでは桜良のやがて来る死=昇天のイメージが強調されている。それは同時に「僕」がこの世に残されるということでもある。実写映画は、この2人の間にそのような絶対に超えることのできない「距離」があることを演出で示すことから、2人の最後の日々の物語を始めるのである。