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美術館には「あまり似合わないんじゃないか…」 《活動60年》なぜ篠山紀信の作品は、東京都写真美術館で今まで展示されなかったのか

アート・ジャーナル

2021/07/24
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旬のものを写真にし尽くす『晴れた日』

 写真美術館で篠山紀信の個展をやる! そう決まった途端、ひとつ大きな課題が浮かび上がった。

 60年にもわたる濃密な活動を誇るゆえ、篠山作品はあまりに多岐にわたる。あれもこれもと紹介していたら、ひとつの展覧会に収まらないのが明らかだったのだ。

 そこで作家と学芸員は考えを尽くし、1974年発表の作品『晴れた日』を軸に据える方針を打ち出した。

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 『晴れた日』とは、ジャーナリズムを標榜するビジュアル週刊誌「アサヒグラフ」に、半年にわたって連載した作品。政治、国際関係、事件、気象と社会のあらゆるものに目配りしながら、その週に起きた最も旬なことを写真で表現していくというもの。長嶋茂雄や輪島功一、オノヨーコら時代のアイコンとなった人物も多数被写体として登場する。

 
 

 時代を捉え、旬を写真にするというのは、篠山紀信が一貫して持ち続けてきた創作姿勢だ。『晴れた日』はその典型例と言える。ならば今展の全体を『晴れた日』の流儀に倣って構成し、60年のキャリアを『新・晴れた日』として捉え直すことができれば、なんとか統一感ある展示となるのではないか。篠山紀信という巨大な写真運動体の全貌とは言わぬまでも、アウトラインは描き出せるのではと踏んだのだった。

 実際の展示は、同館の2フロアを用いた二部構成という、なかなか壮大なものとなっている。

「第1部」1960年代から70年代にかけての作品

「第1部」は3階展示室を使って展開される。並んでいるのは1960年代から70年代にかけての作品で、初個展を飾ったモノクロ作品『誕生』など美的感覚が冴えるものから、『天井桟敷一座』といったドキュメンタリー色が強いものも。

 
 
 
 

 さらには『晴れた日』はもちろんのこと、日本各地を訪ねて人が棲む息吹を写真に収めた『家』、当時の人気スターたちの満面の笑顔がズラリ並ぶ『明星』表紙などなど。あまりに多彩で振り幅が大きい写真群に圧倒されるしかない。