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“きさらぎ駅”や“八尺様”を生み出した「洒落怖」スレッドブームは過去のもの!? ネット発の“怖い話”が生まれにくくなった意外なワケ

『21世紀日本怪異ガイド100』より #2

2021/08/08
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自分自身の体験という体裁をとるストーリー

 そしてもうひとつ、ネット上で語られる怖い話の特徴として、自分自身が直接体験した体裁で語られる話が多くなったことが挙げられます。

 口承で語られる怖い話、口裂け女や花子さんなどは、~という恐ろしい存在がおり、特定できない誰かがこれと遭遇し、何らかの形で殺害された、というような、第三者が犠牲になった話として語られることが多く、体裁としては実際にあった話として語られるものの、その体験者はいない、というものが多数でした。

 しかし、2000年代に語られた話は、自分自身が体験した話として語られるものが多くなります。これは匿名掲示板や匿名投稿サイトという、現実の人間と体験者を直接結びつけることが難しいネットの特徴も関係しているでしょう。創作でも本当に体験した話でも、人々は個人の情報を特定されないまま自分が主役となる話を語ることができるようになったのです。

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©️iStock.com

 しかしこれによりひとつ制限が設けられました。それは、その怪異と遭遇した人間は生還しなければならないというものです。これを解決する方法はいくつかあり、「ばりばり」や「アケミちゃん」のように自力で逃げ切ったりして解決するもの。「くねくね」や「ヤマノケ」のように自身も遭遇したものの、直接被害を受けるのは一緒にいた人物とするもの。「八尺様」や「禍垂(かすい)」のように自身が被害に遭うものの、特殊な能力や知識を持つ人物(宗教者が多い)が解決してくれるもの、などがあります。

 もちろん、これらの怪異が実在すると考え、書き込まれた体験談を純粋に怖がりながら読んでいた人もいたでしょう。一方、こういった展開をお約束として、ただ単に読み物として楽しんでいた人も多かったでしょう。

 しかし2000年代に流行した怖い話は、次第に勢いを失っていきます。