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“きさらぎ駅”や“八尺様”を生み出した「洒落怖」スレッドブームは過去のもの!? ネット発の“怖い話”が生まれにくくなった意外なワケ

『21世紀日本怪異ガイド100』より #2

2021/08/08

2011年~2020年のネット上における「怖い話」

 2000年代には今でも知られる数多くの怖い話が生まれたことは既に触れましたが、2010年代に入るとその数は減少します。もちろん、そういった話が語られなくなったわけではありません。「渦人形」や「イケモ様」「うたて沼」などぞっとする話はいくつも投稿されていますが、やはり絶対数は少なくなっていきます。

 文化人類学者の廣田龍平氏が洒落怖の盛衰を追った『「死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?」略史』(KADOKAWA『怪と幽』vol.007 収録)によれば、洒落怖の全盛期は2005年5月からの1年間で、それ以降も小粒な話は毎日のように投稿され、活気を保っていたものの、2012年頃から投稿される怖い話のマンネリ化が指摘されるようになり、やがて投稿数は減り、荒らしが大量に現れるようになったこともあり、洒落怖は衰退したといいます。2002年にはオカルト板の住民たちが洒落怖スレッドを始め、オカルト板の主要スレッドに投稿された話を集めるまとめサイト「死ぬ程洒落にならない話をまとめてみない?」がありましたが、2018年に閉鎖されてしまいました。

©️iStock.com

 廣田氏は2ちゃんねるから人が流れて行った先として、創作を前提として物語が投稿される「小説家になろう」「SCP」などのサイトがあったのではないかと指摘しています。一方、2010年代には2ちゃんねるの内容をそのままコピー&ペーストし、編集して読みやすくしたまとめブログ(コピぺブログ)が活気を得ていったことを指摘しています。その是非はともかくとして、2ちゃんねるやまとめサイトに行かなくても怖い話を気軽に読めるようになったのです。

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個人情報流出事件と、転載による怖い話

 個人的には、オカルト板の利用者の減少は、これらに加えて2ちゃんねる全体を巻き込んで起きた2010年代の騒動も要因になっているのではないかと考えます。 

 2013年には個人情報流出事件が起こり、利用者の書き込みと個人情報が丸見えになるという事態が発生しています。翌年には初代管理人である西村博之氏が解任され、管理権限が移行されました。これに対抗して初代管理人である西村博之氏が新たに「2ch.sc」を開設、一部住民がこちらに移動しました。また同年にはコピペブログへの転載禁止騒動が起き、これに伴って2ちゃんねるに似せて作られた電子掲示板であるものの、書き込みの転載を許可した「おーぷん2ちゃんねる」へ一部住民が移行します。またこの騒動は2010年代、盛んにオカルト板に書き込まれた怖い話を転載していたコピペブログにも影響を与えました。このため、それ以降のコピペブログは転載が禁止されていない「おーぷん2ちゃんねる」や「2ch.sc」から話を持ってくるか、転載禁止以前の怖い話を何度も掲載するか、ということが多くなっています。これもネット上で新しい怖い話が生まれにくくなっている要因かもしれません。