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《元メルカリCIOが動いた》「IT音痴がやばかった」北海道大型スーパー デジタル改革はなぜ進んだか?

《元メルカリCIOが動いた》「IT音痴がやばかった」北海道大型スーパー デジタル改革はなぜ進んだか?

#4

2021/08/16
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「あ、メルカリのCIOがいる」

 リーダーとして白羽の矢が立ったのは、東急ハンズ、メルカリでCIOを歴任し、実店舗とIT両方の分野で豊富な知見を持つ長谷川秀樹だ。長谷川は、2019年11月に独立し、複数企業でデジタル化を担う「プロフェッショナルCDO」の道を歩み始めたばかりだった。

 対馬と長谷川の出会いは、2019年9月、ベンチャー企業の社長やCIO、事業開発責任者が集うカンファレンス後の交流会だった。いつかコープさっぽろでメルカリのようなCtoCサービスを始めたいと考えていた対馬は、「あ、メルカリのCIOがいる」くらいの軽い気持ちで長谷川に近づいた。

 その後、程なくして長谷川は独立。対馬は長谷川にコープさっぽろの課題を相談するうち、「この人とコープさっぽろを変えたい」と決意したという。一体、長谷川の何が対馬の琴線に触れたのか。

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元メルカリCIOで「コープさっぽろ」DXを担う長谷川秀樹氏 ©酒井真弓

「社内情報を漏らしているのでは」疑惑の声も

「システムのプロなら他にもたくさんいらっしゃいます。でも、業務への理解がない人がシステムを構築し、結局使えないものが出来上がったという例は枚挙にいとまがない。『事業に情熱があって、事業をどうにかしたいからシステムをなんとかする』、この順序が覆ってしまってはダメなんです」

 長谷川は、対馬の案内で初めてコープさっぽろの店舗を訪れたとき、バックヤードのシステムではなく、ずっと店内の商品を見ていたという。

「長谷川さんが一番幸せそうな顔をしたのは、北海道産の『養老牛放牧牛乳』を飲んだ瞬間。結局、システムの話は一切しなかった。まずコープさっぽろの業務を深く知ろうとしてくれたことが決め手なんです」

北海道産『養老牛放牧牛乳』(山本牧場HPより)

 一方の長谷川は、対馬との出会いを偶然ではなく「計画された必然」と振り返る。

「一般的に、サラリーマンのステップアップは社内で昇進すること。これ自体は悪いことではありませんが、問題は、社内だけで人生を過ごしていると、外の世界では何が普通なのかわからなくなること。自分では社内の政治や慣習なんか関係ないと思っていても、実際はそういうものにまみれたキャリアになりがちなんです」

 この長谷川の言葉には「外のものさし」が重要だというエッセンスが込められている。「『何が普通なのか』、これを自分に刷り込ませるために積極的に社外の人と会ってきたんです。『何が重要なのか』ではなく、『何が普通なのか』です。なぜなら人間は、『普通はこうだ』と思っていることを実行に移すものだから」

 対馬と出会い、声がかかったのは、偶然ではなく「外のものさし」を求める活動がベースにあったからだと話す。こうした考えは、一昔前なら転職や独立を見据えた人脈づくりなどと揶揄されていたかもしれないし、「社内情報を漏らしているのでは」なんて疑惑の声も上がったかもしれない。しかし昨今では、コミュニティの普及も手伝い、企業の垣根を越えた情報交換によって自社にさまざまなアイデアを取り込むことが求められている。ときに、他社は自社を映す鏡だ。他社の人間と話すことによって、自社の強みと弱み、進むべき方向が見えてくることもあるのだ。