「子供たちに迷惑がかかる」
また、逮捕と同時に家宅捜索が行われ、千佐子が逮捕前にいた堺市のマンションの部屋からは、青酸が付着していた小袋と同じ製品が押収された。
当初は頑なに犯行を否認していた千佐子が、筧さん死亡への関与を認めたのは、翌12月10日の起訴の直前だとされる。だが自供後もその内容は揺れ動いていたと、前出の京都府警担当記者は語る。
「千佐子は基本的に饒舌(じょうぜつ)で、世間話や雑談には積極的に応じるのですが、肝心の事件の話になると、頑なに否認していました。ただ、青酸が発見されたことと、供述の矛盾点を突かれるなかで、次第に関与を認めるようになったのです。とはいえ、彼女には最初の夫との間に成人した息子と娘がいるのですが、『子供たちに迷惑がかかる』と、いったん口にした供述を取り消すなど、その内容はあやふやな点が多かった」
しかし、捜査は徐々に千佐子を追い詰めていく。12年3月に大阪府泉佐野(いずみさの)市で死亡した彼女の交際相手で、同府貝塚市の太田義和さん(仮名、当時71)の血液が、近畿大学の法医学教室に残されており、改めて鑑定した結果、致死量を上回る青酸化合物が検出されたのである。そのため15年1月28日、大阪府警が千佐子を太田さんへの殺人容疑で再逮捕した。
大阪府警の取り調べを受けることになった彼女は、2月にはすでに、筧さんと太田さんの2人に青酸入りのカプセルを飲ませたことを自供。また、自身の犯行がそれだけではないことも明かし、捜査はさらに拡大された。
その結果、3月23日には被害者が死亡した地域にあたる大阪、京都、兵庫の三府県警による合同捜査本部が設置され、4月17日にはそこに奈良県警も加わり、四府県警による合同捜査本部となった。前出の大阪府警担当記者は説明する。
「この時点で千佐子は、殺人で起訴された2人を含む8人について、青酸化合物で殺害したことを認めていました。青酸の入手ルートについては、二十数年前に貝塚市で衣類のプリント工場を営んでいるときに、出入りの業者から『印刷を失敗したときに(青酸を)使うと色を落とせるからと貰った』と話していますが、それから時間が経ちすぎていることもあり、裏付けが取れていないと聞いています」
いずれにせよ、合同捜査本部は6月11日に、09年5月に死亡した兵庫県神戸市の末松清人さん(仮名、当時79)への強盗殺人未遂容疑で千佐子を再逮捕した。さらに9月9日には、13年9月に死亡した兵庫県伊丹市の沢木豊さん(仮名、当時75)への殺人容疑での再逮捕がなされたことで、結果的に彼女は3件の殺人罪と1件の強盗殺人未遂罪を問われることになった。