「私はそんなアホな女じゃないです」
じつはこの時期、警察による事情聴取の合間にも、千佐子は次なる出会いを求めて、ふたたび結婚相談所に出入りし、見合いを繰り返していたのである。
私が取材を始めて間もなくのこと、千佐子は堺市で記者たちの囲み取材に応じている。そこで彼女は、「私は一切、自分が犯罪者になりたくないし、そこまでアホじゃないから……。あえてその人を殺すようなことをするほど、私はそんなアホな女じゃないです」と、犯行を真っ向から否定。「なんでこうなるのって、もうその一言です」と自身の置かれた状況について嘆いていた。
また、結婚についてどのように考えているかを問われ、平然と次のように答えている。
「生活の安定というか、まあ、どこかに一緒に遊びに行ったり、楽しくするっていう? そんかわり相手の健康管理は私がするし、美味しいもの食べさせたり……、互いに楽しく暮らすということでしょうね」
あえて記者の取材を受け、自身の潔白を訴える彼女は言い放つ。
「私みたいな普通のおばちゃんが、どこでどうやって毒(青酸化合物)を入手できんの?」
だが、やがてその顔から笑顔が消える出来事が起きる。同年夏になり、千佐子が不用品回収業者に家財道具などを引き渡したとの情報を得た京都府警は、それらの任意提出を業者に依頼して、中身を調べた。すると園芸用品のプランターの土のなかから、微量の青酸が付着した小袋を発見したのである。逮捕前の千佐子を直接取材した大阪府警担当記者は話す。
「彼女は次第に自分が追い詰められているのを感じていたようです。犯行については『絶対にやってない』と言い張りながらも、『自分の運命を恨みたい』と洩らすなど、不安を口にするようになっていました」
14年11月19日、千佐子は筧さんへの殺人容疑で京都府警に逮捕された。その際の状況について同記者は続ける。
「18日に千佐子が自殺をほのめかしていることを聞いた関係者が、警察に通報したのです。京都府警はまず向日市の筧家に向かいましたが、不在だった。そのため千佐子が二重生活を送っている堺市のマンションに急行したところ、19日の早朝に彼女が外出する姿を確認。最寄駅から電車に乗って、大阪府熊取(くまとり)町内の駅で下車した際に任意同行を求め、午前8時過ぎに逮捕状を執行しました」