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「とじこめられた場所にいるので人恋しいのです」

 次の面会からは、彼女が過去に交際や結婚をしてきた相手について話題にすることにした。この時点で私は、約15分から20分間の面会時間において、最初の数分間は楽しい話、途中であまり楽しくない話、最後の5分間でまた楽しい話というふうに時間を割り振るようにしていた。

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 そこで真ん中の時間を使い、まずは(2)北山義人さんについての印象を尋ねていく。

「先生、よう知ってんなあ。北山さん、あの人がいちばんおカネ持っとったわ」

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 北山さんについては裁判で一度も取り上げられていない。千佐子がまず口にしたのは、彼がカネを持っているか否かについてだった。質問を続けると北山さんについて「いい男」だったと褒めるが、その理由はカネ持ちで気前がよいから、というものである。

 それは彼以外の男性についての評価も同じだった。カネがあるかないか、気前がよいかケチかということばかりを語る。さらにいえば、相手によってはこちらが名前を告げても記憶が朧(おぼろ)げな人物までいた。地域や住まいの特徴を挙げてやっと思い出し、「ああ、おったねえ。でもあの人は普通の人……」との評価が返ってくる。一定期間交際して、遺産を手にしているにもかかわらず、だ。

 京都拘置所での面会を重ね、交際相手の情報を集めては東京に戻るという日々を繰り返すなかで、千佐子からの手紙は次々と届いた。

〈とじこめられた場所にいるので人恋しいのです。こんな処(? シューン)にいるのに、こんな出会い(? ?)があるなんて夢のようです(夢ならさめないで)。自分がおかした罪が(ママ)消しゴムで消したいです(夢のようなこと言ってスミマセン)。だからといって死ぬ勇気もないダメ女です(シューン2回目ですね)〉と書かれた手紙の最後は〈どこでくらしても、女ですもの。女ですもの……〉との文章で締められていた。

 このように現役の“女”であることを強調し、“秋波(しゅうは)”を送ってくる文面には心当たりがあった。