1ページ目から読む
3/5ページ目

「愚女ですがよろしゅうにお願いします」

 それは、千佐子の裁判のなかで証拠として公開された、(10)沢木豊さんや(11)筧康雄さんとの交際時に、彼女が送ったメールである。

©iStock.com

〈離れて暮らしていても自然体で夫婦の感覚で、隔たりや垣根、ハードルがないんです。数カ月しかたってない感覚でないんです。大好きになってしまっているからでしょうね〉(13年8月11日に、沢木さんに出したメール)

〈おはよう。昨日はありがとう。勇夫さんの愛と信頼に、あなたの元に行く気持ち、揺るぎないものになりました。私のような愚女を選んでもらいありがとう。これからは2人で幸せを見いだしていきましょう。愚女ですがよろしゅうにお願いします〉(13年8月18日に、筧さんに出したメール)

ADVERTISEMENT

 ちなみに双方のメールが送られた日付は、1週間しか離れていない。 

 千佐子にとって、男性にこうした文面を送ることは、ある種の身に染みついた習性なのだろう。だからこそ、今後どうなることもない私に対しても、思わせぶりな手紙を送ってくるのだ。ただし、私に対しては、孤独を避けるため、自分の味方になる相手を作りたいという心理が加わっているように思える。

「殺めました」鵺のような表情で

 千佐子との面会を続けながら、私は並行して彼女の発言の真偽を判断するための作業をやっていた。その一つが、『矢野プリント』の元従業員に対する取材だ。

 裁判で千佐子は一貫して、青酸化合物の入手先は出入りの業者であり、それは高級な衣類のプリントをミスした際に、間違いを消せるからと言われて渡されたと証言していた。

 しかし私が見つけ出した元従業員は言う。

「商品は赤ちゃんの前掛けとか、子供のパンツのお尻部分の下絵とかでした。布の表裏の間違いとかはありましたが、プリントを失敗したので色を消すということはありません。安い布きれですから、そういうことがあれば廃棄していました」

 そこで、そろそろ千佐子との関係が暖まってきたと感じていた私は、軽く打診をしてみることにした。

 青酸化合物について「毒」という言葉を使う千佐子に倣(なら)ってそう言うことにし、目の前の彼女に私はタメ口で切りだした。