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火箸で頭部を一刺し、硫酸をかけて失明に…「銚子の虎」が統治していた港町の“黒い影”の実態

『サカナとヤクザ 暴力団の巨大資金源「密漁ビジネス」を追う』より #2

2021/08/07
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ヤクザを相手に罵声を浴びせた女将

 火箸で頭部を刺された女性の事件も、飯沼観音絡みだった。ただし、新聞記事は事件に至る経緯をすっ飛ばしている。この女性が経営していた『百番』という店は、観音寺の境内にあった。市内でもっとも賑わう繁華街にもかかわらず、寺の敷地だったため地代は格安で、民間の土地と同様の金額で又貸しするだけでけっこうな儲けになるため、寺は堅くそれを禁止していた。

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 百番の隣は山口某が食堂を経営することになっていたが、老齢のため頓挫し、寺との話し合いで、資金を出した砂場食堂が引き継ぐことになっていた。すると百番の女将は、砂場食堂に又貸しを打診し、内密に計画を進めていたのだ。

 寺に露呈すると、百番は空き地を囲むように塀を建設した。何度取り壊すよういっても聞き入れられず、寺は懇意にしていた高寅にその撤去を頼み込んだのである。

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 高寅は読売新聞が高寅糾弾キャンペーンをしていた渦中だったので、この仲裁は気が進まなかったらしい。しかし何度も寺に頼まれたため、高寅は正妻の弟である幹部を交渉に送り込んだ。

 女将は気の強い人だったという。ヤクザを相手に罵声を浴びせ、境内のヤクザが騒ぎを聞きつけ飛び込んできたほどだ。近くの遊技場にいた高寅も、店に入ってその様子を見ていた。すると女将は高寅たちを罵り、配下が火箸で女将の額を打ったのだ。彼女は無辜の市民ではない。しかし、高寅側が暴力を振るった事実は動かしようがない。

高寅追放

 事実、この暴力事件が高寅追放の決定打になった。カイズ・ビーチの記事は英語でも配信され、アメリカで報じられた。これによって千葉の軍政部が動き、検察が高寅を逮捕した。百番の事件では殺人未遂とされ、その他、脅迫や傷害の容疑が加わり、3月28日に起訴された。

 国会も騒動に巻き込まれている。