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火箸で頭部を一刺し、硫酸をかけて失明に…「銚子の虎」が統治していた港町の“黒い影”の実態

『サカナとヤクザ 暴力団の巨大資金源「密漁ビジネス」を追う』より #2

2021/08/07
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「これは新聞紙上等で御承知の、千葉県銚子市における高寅組の親分、高橋寅松に関する暴力団の調査でございまして、この高橋寅松、俗称高寅というのが、本年三月七日逮捕せられたのでありまして、三月二十八日千葉地方裁判所に殺人未遂、脅迫、傷害等の罪名によつて起訴せられ、千葉拘置所に勾留中のものでありますが、調査の目的は、高寅と警察との関係、検察庁における高寅の取扱方、それから高寅組の暴力団としての実態等を調査するわけであります。事実その逮捕に当つて、銚子市公安委員会に対して、国警千葉本部に援助要請をするように申入れたところが、公安委員会の要請が遅れたために、逮捕が遅れたとか、市警察司法主任の転任に当り高寅より多額の餞別を送つたとか、その他いろいろの事件があるわけであります。その関係者といたしますのが、高寅の外その子分が大分ありますのと、銚子市の公安委員長、銚子市警察署長、弁護士、東日本新聞社長、元銚子署の司法主任、それから千葉の地方検察庁の三輪検事こういうふうに関係者が多い関係から、この際現地に出張して調査を了したいと、こういうことでございます」(昭和24年4月25日参議院議員運営委員会。河野義克の発言)

高寅を擁護する声も多かった銚子住民

 調査は難航したようである。銚子で聞き込みをすると、高寅を擁護する声も多かったのだ。占領下で文化戦略を担当した民間情報教育局のインボーデン少佐はこれだけの騒ぎにもかかわらず、読売新聞以外の他紙が傍観しているのを疑問視し、新聞記者に調査を依頼している。

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「銚子には高寅派と反対派と中立派がいる。我々はこれを取り上げない」

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 という結論だったようである。

 前出の火野葦平が『暴力の港』を書いたのはこの裁判中だった。出版後、大衆演劇の一座を率いていた三代目梅沢昇が、浅草常盤座で3週間の芝居公演にかけた。旅芝居はその後、横浜、神戸と回ったが、内容は単純明快にデフォルメされており、高寅が悪の化身として描かれている。当然、事実とは異質のフィクションだ。

 横浜には高寅の兄貴分だった笹田昭一がおり、この芝居を「出鱈目すぎる」と非難した。神戸でも興行界の大物である山口組三代目・田岡一雄が「限度を超えている」と激怒し、山口組によって公演は中止に追い込まれた。