「相手の気持ちを想像するのが苦手、こだわりがある、といった発達障害の特徴は、微妙なやり取りが必要な男女関係でいえば、性の問題行動のリスクが高くなるかもしれません」
そう語るのは、児童精神科医の宮口幸治氏だ。自身の少年院での勤務時代の経験をもとに、人口の十数%はいるとされる「境界知能」の人々や、気づかれない軽度知的障害に焦点を当てた大ベストセラー『ケーキの切れない非行少年たち』(宮口幸治著、新潮新書)より抜粋して引用する。
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性の問題行動につながることも
対人スキルの力が最も試されることの一つに、異性との交際があります。
例えば、ある男性が意中の女性と付き合いたいと思ったとき、「デートしたい」といった気持ちを、いつ、どのようなタイミングで、どうやって伝えるかには、とても高度な対人スキルが必要です。デートに誘えたとしても、女性との距離を縮めるためには、さらなる対人スキルが必要になってきます。相手に“つき合って欲しい”と伝えたとしても、時期が早過ぎたり、脈がない場合もあったりしますので、事前に十分に相手の気持ちを読み取っておく必要がありますが、それにもスキルがいります。こうしたプロセスの途中で相手の気持ちを見誤り、自分の思い込みで一方的に進んでしまうと、ストーカー行為や性の犯罪行為につながってしまうこともあるのです。
性犯罪の中には、「相手の同意があった」と勘違いして一方的に行為に及び、結果的に強制猥褻や強姦になってしまったケースも多くあると想像されます。知的障害や発達障害をもった性非行少年の中には特にそういった思い込みが強い少年もいて、「相手の女の子が僕を誘ってきた。僕は騙された」となかなか主張を曲げない子もいます。相手の気持ちを想像するのが苦手、こだわりがある、といった発達障害の特徴は、微妙なやり取りが必要な男女関係でいえば、性の問題行動のリスクが高くなるかもしれません。