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2021/08/10

source : 文春新書

genre : 読書, 社会, 歴史

「私ももはや決戦に移行すべき時であると主張したい」

 一つだけ、本書ではまったくふれられていないことを付け加えておきます。こうして世界情勢が急展開しているとき、日本の国民はどうしていたのか、ということです。これがまた情けなくなるほどメディアに煽られて勇み立っておりました。たとえば、10月26日の東京日日新聞(現・毎日新聞)の社説です。読めば読むほどいやはやとため息がでてくるばかりの大言壮語。

半藤一利さん

「戦わずして日本の国力を消耗せしめるというのが、ルーズヴェルト政権の対日政策、対東亜政策の根幹であると断じて差支ない時期に、今や到達していると、われらは見る。日本及び日本国民は、ルーズヴェルト政権のか〻る策謀に乗せられてはならない。われらは東條新内閣が毅然としてか〻る情勢に善処し、事変完遂と大東亜共栄圏を建設すべき最短距離を邁進せんことを、国民と共に希求してやまないのである」

「最短距離」とは戦争をやれ、ということですね。歴史の流れはもう滔々として、誰も止めることができない激流となっています。個々人の反対はたくさんあったと思います――たとえば、山本五十六などもそうです――が、米内光政の言葉を借りれば、ナイアガラの滝に逆行して、孤独の舟を漕ぐような、それほどはかないものであったということです。

 議会でも、11月16日から5日間、臨時国会がひらかれ、追加の軍事予算38億円がまともに審議されることなく成立しました。質問に立った小川郷太郎が叫びました。

「私ももはや決戦体制に移行すべき時であると言いたい」

 これに呼応して、島田俊雄議員も大声をあげます。

「ここまでくれば、もうやる外はないというのが全国民の気分である」

 東条首相もこう獅子吼。

「帝国は百年の計を決すべき重大なる局面に立つに至ったのであります」

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