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2021/08/10

source : 文春新書

genre : 読書, 社会, 歴史

「人間はる時、心身をもって憤るのだ」

 これをうけて新聞は、それぞれ勇ましい論陣を張りました。「一億総進軍の発足」(東京日日新聞)、「国民の覚悟に加えて、諸般の国内体制の完備に総力を集中すべき時」(朝日新聞)。どこもかしこも対米強硬の笛や太鼓ではやしつづけていたわけです。

 もう一話。戦争に踏み切れと鼓舞したような東京日日の社説が載った一月後の11月26日、千島列島の単冠湾から南雲忠一中将指揮の大機動部隊が、真珠湾めざして出撃していきました。そして同じ日、京都では高坂正顕、高山岩男、西谷啓治、鈴木成高の座談会「世界史的立場と日本」(発表は『中央公論』昭和17年新年号)が行われていました。当代きっての有識者の彼らは説いています。

半藤一利さん

 世界史は大きく転回しつつある。西欧という一元的な世界史に代わって、アジアが登場して多元的な世界史がはじまっている。その大いなる歴史的な転回に主導的な役割を果たすべき国が、わが日本なのである。日本人がその役割を自覚し、世界史の方向を原理的に考え直すということは、まさに歴史の要請というべきなのである、と。

 そしていちばん最後に高坂正顕がいいきりました。

「人間は憤る時、全身をもって憤るのだ。心身共に憤るのだ。戦争だってそうだ。天地と共に憤るのだ。そして人類の魂が浄められるのだ。世界歴史の重要な転換点を戦争が決定したのはそのためだ」

 さてさて、昭和16年12月8日、日本人はみんなほんとうに憤っていたのでしょうか、当時11歳のわたくしにはそうは見えなかった記憶があるのですが。

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