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 この合図からしばらくすると、担当がガチャガチャと金属音を立てて鍵を差し込む音、ガラガラと房扉を開ける音が一定のリズムを伴って廊下に響き渡る。

 担当がボクの部屋の前に来て、鍵穴に鍵を差し込み、扉を開いた。そして担当の「ご苦労さん」という声とともに、段ボールの箱が廊下に運び出された。

 いつもならそのまま行ってしまう担当が、部屋の中を覗き込むと「サカハラ、明後日移送になるから、明日は領置調べだ。ご苦労さん」と言って、扉に何かをペタンと貼りつけた。移送が確定した者には「移送予定」と書かれた磁石のついたプレートが貼りつけられるのだ。そして移送までに、入所のときに自分の私物を記録した刑務所側の帳簿と照らし合わせ、何一つ忘れ物のないように確認をとって、移送の準備をするのだ。

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 材料出しが終わった担当が、手に持った鍵の束をジャラジャラと音を立てて回しながら、ボクの部屋の前を通った。

「担当さん、自分の移送先はどこですか?」ボクは担当を呼び止めて訊いてみた。すでに経理夫から聞いて移送先を知っていたのだが、わざと知らないふりをして訊いてみたのだ。すると担当はニッと笑うと、「さ、む、い、と、こ」とだけ言った。

 本来は移送待ちの受刑者に移送先の情報を教えてはいけないという規則があるので、担当たちはそれ以上は喋れないのだが、二カ月間も一緒にいて多少情が通っていたことから、特別にサービスのつもりで、微妙な線で教えてくれたのだろう。「さ、む、い、と、こ」とだけ。これはまさに、「北」を差しているのだ。

 寒さの厳しい刑務所は暖房設備が整っているので、冬は受刑者にとって天国だ。それに夏は涼しい。食事も他の施設と比べると、かなりハイカラな物が出ているといえる。担当たちの質も意外にいいようだ。

移送を免れようと企てる輩も

 移送待ちで拘置所の独居房にいる受刑者たちは皆、自分がどこの施設へ送られるのか、毎日気を揉んでいて、旅慣れしている経理夫や立ち役、掃除夫たち(再犯囚が収監されるB級刑務所で、この三つの役に就いている者たちはだいたい旅慣れている)から、全国の刑務所の居心地のよさなどの情報を収集するのに腐心する。

 事前に情報をキャッチして、そこがもし、気に喰わない施設だったら、密かに「移送拒否」を企てることもできるからである。

 そういうわけだから、担当は移送の決定した受刑者に、決して事前に移送先を教えたりしない。移送先を不服として、移送されないようにわざと懲罰にかかったり、仮病を装ったりして、移送を免れようと企てる輩が現れるからである。

 領置調べが終わった翌日、ボクたち三人組(保安上、飛行機での移送は大体三人と決まっている)は早朝の領置室にいた。久しぶりに身につける服には、強烈な樟脳の臭いとカビの臭いとがブレンドされて鼻を突いてきた。ボクの服装は、カステルバジャックのサマーセーターにブルージーンズ。