服を身につけると、ボクたち三人組は手錠をかけられ、大きなスチールテーブルの前に横一列に並ばされた。そこには、偉そうにしている幹部職員の担当たちが面子を揃えて、眠そうな顔をして立っていた。
「気をつけ!」ボクたちの脇に立っている若い駆け出しの担当がボクたちに向かって、おもむろに気合いの入った号令をかけた。
その号令に素早く反応し、ボクたちが気をつけの姿勢をとると、「課長に対し、礼!」
次の号令が飛ぶ。
直立不動で立っているボクたちは、そのまま身体を四五度に曲げてお辞儀をし、一呼吸のあと、「直れ」の号令がかかると、まるでバネ仕掛けの人形のように、ピョンと上体を起こす。
すると、夜勤明けで眠たそうなツラの課長が、手にしている身分帳を開いて目を通すと、身体をグイッと反らし、虚勢を張るかのようにして、
「お前たちをこれから帯広刑務所へ移送する。道中、担当さんたちの言うことを聞いて迷惑をかけるな。もし、何かやれば、向こうで取り調べにするぞ。いいな、わかったか!」
恫喝するように叫んだ。
ボクは分類面接のときに希望していた、高い人気の帯広刑務所へ送られる嬉しさから、心の中で歓喜の声をあげ、小さくガッツポーズをした。「はい!」という返事も、相棒たちよりひときわ大きかった。
このように刑務所側は、移送先の正式な告知は受刑者をいつでも強引に引っ張って行ける状態にしてから行うのである。
柱にしがみつき移送拒否
とはいえ、過去にはこんな根性のある奴もいた。
その受刑者の生活の基盤は都内にあったことから、当然、愛する家族も都内で生活していた。しかし、その受刑者が言い渡された移送先は、東京から遥か遠く離れた九州は福岡刑務所。すると、言い渡しを受けるや、途端に狂ったように、
「冗談じゃねぇ! 俺は行かねぇ! 九州じゃ、女房や子どもに会えねぇだろうが! だから絶対に行かねぇ!」と叫び、担当の止めるのも聞かずに暴れ回った挙句、領置室の柱にしがみついて、頑として九州行きを拒み続けたのである。
職員たちは必死な形相で柱にしがみつくその受刑者の手の指を剥がそうとしたり、足を引っ張ったりしたが、家族との切れかかる絆を必死に繋ぎ止めて護ろうとするその受刑者の手と足は、容易に剥がれない。
結局、担当たちはフライトの時間が迫っていたことから、その受刑者一人を残して出発せざるを得なかった。
後日、その受刑者は干された挙句、取り調べられて懲罰となったが、ほどなく東京から
さほど遠くない甲府刑務所へめでたく送られていった。
その受刑者は移送当日、移送確定房の視察孔から覗いているボクに気づくと、勝ち誇ったような顔で片目をつぶり、手錠のはまった手を振って去っていった。
塀の中では、移送一つ取ってみても、家族との絆を必死に護ろうとする、悲しくも切ない受刑者たちの、壮絶な闘いのドラマが起きているのだ。
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