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7億円かけて開設された宗教施設

 ここはかつて、宗教法人聖福院が宗教活動を行っていた施設だった。聖福院は福岡阿幸(ふくおかあこう)氏という女性を教祖とし、1985年に真言宗山階派として開宗した。同年、この施設が造られ、本拠地として機能していたようだ。施設は細部に至るまで妥協を許さず、豪華で立派な造りをしている。開設にかかった費用は、7億円と言われているそうだ。

 宗教活動の実体は、真言宗とはかけ離れていたものの、除霊によって霊障を取り除いたり、信仰によって心身の健康を得るといった、ある意味オーソドックスな内容だった。カルト的な教団でもなく、穏やかに信仰が行われていたという。教祖である福岡阿幸氏のカリスマ性によって、四国や関西を中心に、少なくとも数十人の信者がいたそうだ。

施設の外観。「聖福院」との文字が見える
宿坊に残されていた浴槽

 7億円もかけて拠点を造ったと聞き、その資金の流れが気になったが、当時はバブルの時代。教祖は財テクにも長けていた。濡れ手に粟で手にしたお金が資金源だったため、建物は贅を尽くし、信者から無理にお金を集める必要もなく、特にトラブルは起きていなかったという。

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教祖と信者の訴訟を経て……

 転機が訪れたのは、2007年のことだった。教祖が高齢となり、言動に異常をきたしはじめたのだ。正常な宗教活動を行えなくなったため、施設を使って信仰を続けたい信者側と、教祖との間で対立が発生した。争いは訴訟へと発展し、教祖側が勝訴したが、結局施設は使われなくなってしまった。

 その後、2015年に教祖の福岡阿幸氏が逝去し、教団は解散となった。翌2016年に宮崎さんが管財人に選ばれ、現在に至っている。ちなみに宮崎さんは管財人に選任される以前から、訴訟等の職務を通じて教団と関わりがあったため、事情に精通されているそうだ。

「不法侵入禁止」との貼り紙をする宮崎さん

 私はこれまで、廃墟と呼ばれるような荒廃した建物を数多く訪れてきたが、その来歴を知ることができたケースは限られている。しかし、全ての建物には歴史がある。その歴史を紐解いてゆくのが、こうした建物を訪れる醍醐味であり、今回、こうしてつまびらかに知ることができたことで、さらに興味も湧いてきた。