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「俺、タイに着いて初日にヤラれちゃいましたよ」

 詐欺に遭ったというのだ。

 バンコクには茶色いチャオプラヤ川が流れており、佐藤氏は着いた初日になぜか川を見にいった。

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 船着場でたたずんでいると、身なりのいい中年の女性が話しかけてきた。彼女はマレーシア出身で、今から川をさかのぼろうと考えているところだという。

「一緒に船に乗って観光しませんか?」

 普通ならば「予定があるんで」と断るところである。

 佐藤氏は答えた。

「いいですね。ちょうど予定もなかったし」

 エンジン付きのボートには運転手とその助手が乗っており、4人でのちょっとした船旅となった。

川の真ん中で「4000バーツ」を請求される

 狭い路地を抜けたり、観光名所になっている寺院の脇を通ったりと、それなりに楽しめたようだが、いざ帰る段になって問題が生じた。

 川の真ん中でボートが停まった。

 料金を払えというのである。

 最初の話では、たしか40バーツ(約120円)ということだった。

 しかし助手は法外な金額を口にした。

「4000バーツ(約1万2000円)」

 佐藤氏が理解できずにいると、同乗していたマレーシアの中年女性は「あら、そう」といった顔付きで、4000バーツを支払っている。

©iStock.com

 目の前でやり取りを見せられた佐藤氏は、ようやく「ヤラれた」ことに気付いたが、どうすればいいか分からずパニックになった。

このままどこかに連れていかれる恐怖

 慌てて見回したが、川の真ん中である。岸までは100メートル以上あり、とても泳いで逃げ切れるとは思えない。岸まで行き着く自信もないし、ボートで追ってこられたら確実につかまる。

 助手は鋭い眼差しで詰め寄ってくる。

「この女性は払ったじゃないか。お前も払え。4000バーツだ」

 佐藤氏は「金を取られたくない」という気持ちより、「このままどこかに連れていかれたらどうしよう」と不安になった。初めての海外でこのような目に遭ったら、誰もが恐ろしくてたまらない。

 結局、彼は要求通りに4000バーツを支払い、ボートを降りた。持ってきていた旅行費用の多くをここで失ったのである。

 この話を聞いて私は同情するより、自業自得だと思った。旅先で声をかけてくる人間は「人がよさそうに見えれば見えるほど」注意しなければならないのだ。「マレーシアからきた」という中年女性の言葉も疑わしいものだ。

 そのことは佐藤氏も理解しており、今後の旅に役立てたいと話していた。