たまたま顔を合わせた3人の旅行者のうち2人が同じ被害に
ふと横を見ると、もう1人の旅行者である大村氏はやけに神妙な顔をしていた。なにかあったのかと聞くと、彼は意を決したように口を開いた。
「俺も、それと同じのヤラれたかもしれません」
私と佐藤氏が唖然としたのは言うまでもない。それにしてもこんな偶然があるのだろうか。たまたま顔を合わせた3人の旅行者のうち2人が同じ被害に遭っていたというのは。
状況を聞くと、ほとんど同一の手口で、大村氏は3000バーツを請求された。しかし彼が佐藤氏と違ったのは「絶対に払いたくなかった」ことである。
彼は以前ベトナムに個人旅行したことがあり、その分、ぼったくりへの抵抗力がついていたのかもしれない。
彼は同乗者の中年女性が助手に払った3000バーツを引ったくり、それを彼女に返し、
「お前が払うとおかしくなる。俺が交渉する」
と言い張った。
強盗やぼったくりを相手に値段交渉するというのも妙な話だが、これはやり方次第で通用する。本来ならば「一銭も払ってやるものか」という気持ちだったが、日も暮れかかっているし、その後の予定も差し迫っていた。
その中で大村氏は値切りに値切って、なんとか200バーツまでまけさせた。
最後は相手のほうがぐったりした様子だったという。
200バーツを叩きつけて逃げる
しかも「金は後で払うから、先にボートを岸に着けろ」と言って譲らなかった。これは先程の風俗美人局の話に置き換えれば「とにかくパンツだけでもはかせろ」と言っているのと同じである。
交渉の結果、彼はパンツをもぎ取った。
岸にボートを着けさせたのだ。
ここで一瞬、金を払わずに逃げようかと考えたらしいが、重大なトラブルに発展するかもしれないと思い直し、200バーツを叩きつけて逃げた。相手は追ってくることはせず、被害を最小限で食い止めることができた。
この一連の話で最も落ち込んだのは、佐藤氏である。
「200バーツでよかったんですか。俺、4000も払っちゃいましたよ」
彼とはカンボジアで別れたが、その後、ベトナム、ミャンマー、ネパール、インドなどのアジア各国を回ると話していた。
私は帰国し、しばらくはメールのやり取りをしていたが、ベトナム以降ぷっつりと連絡が途絶えてしまった。無事にやっていればいいのだがと時折心配になるのである。
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