住宅を購入するとき、当たり前のように利用するのが住宅ローンだ。住宅は多くの家庭にとって一世一代の大型の買い物である。したがって買えるようになるまで貯蓄するよりも、ローンを組んで買ってしまおう、というのが家の購入でローンを利用する、いわば常識となってきた。

ローンで家を買うのが得策だったインフレ時代

 戦後から平成初期にかけて不動産は大幅に値上がりを続けた。住宅が圧倒的に不足する中で、他人よりもなるべく早く家を持つことは、価格が年々上昇を続ける時代は実に正解だった。

 当時、住宅金融公庫の金利水準は高く、基準金利は5.5%と、今から考えれば信じられないほど高い水準であったが、そんなことはお構いなしに人々は我先にと家を買い求めた。平成バブル時代には、家を買って半年後に買った値段の2割、3割増しで売れたなどという話がマーケットでは飛び交っていた。

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 景気が良く、モノの値段が上がるインフレ状態では、金利が多少高くても、家の価値がそれ以上に上昇している限り、ローンを利用して買ったほうがお得だったのは言うまでもない。

 また日本の多くの会社が終身雇用を約束していた。住宅ローンは借り手が働いて得る給料が唯一の返済原資である。その原資が長期にわたって保証されているようなものだから、貸し手側も安心して長期のローンを組めたのだ。

インフレ政策の恩恵を受けているのは…

 平成バブル崩壊以降の日本は長期にわたって景気低迷が続いている。失われた20年と呼ばれたものが、最近では30年になり、国は数々のインフレ政策を導入するも、消費者物価は世界でも稀にみる水準で低迷し、いまや「安い国ニッポン」などと揶揄されるようになっている。

 このような経済状況の中で、ここ数年都心部のマンション価格だけが値上がりを続けたのは、インフレ政策の一環として、市場に大量のマネーをばらまき続けている政府の施策の恩恵を受けているのに過ぎない。本来はこの恩恵を一身に受けるのは投資家だ。投資家のマンション投資は3年から長くても5年で、物件を売却して手仕舞いをする。すでに賢い投資家の多くは、いったんエグジット(出口から出る)をして次の投資機会を待っている。

 こうした背景のもと、現在家を20年から30年もの長期ローンで買うことは、果たして得なのだろうか。ローンを組んで買うということの意味を今一度じっくり整理してみたい。家族が増えたからそろそろ家を買おう。賃貸では家賃分が出ていくだけで資産にはならない。ローンの返済をするのは大変だけれども、払った分が資産になるのだから、早めに買ってしまったほうが得。現在でも家を買おうとする多くの人はだいたいこの程度の理屈でローンを組んでいる。しかしこれからの時代においても、このステレオタイプな考え方は正しいのだろうか。