――私生活で身の回りで起きたことは包み隠さず自虐的にエッセイで描けるのに、架空のキャラクターにセリフを言わせるのは恥ずかしい?
福満 ……本来は逆でもおかしくないですよね。ただ、エッセイマンガにしても、僕は普通のエッセイマンガの作法を身につけていないというか……。
「もう歳も歳なので、恥ずかしいとか言ってられません」
――『僕の小規模な生活』を例にすると、後半は身辺雑記(エッセイ)というよりは、回想を含めた半自伝的な、私小説的な内容でした。
福満 せっかくエッセイで評価されてきたのに、エッセイに向き合えていなかったんだと思います。『僕の小規模な生活』の頃でいえば、キャラクターを可愛く描くことに抵抗を感じて、変にキモい絵にしちゃっていました。
いまでは後悔しています。やはり人にお見せする商品でもあるわけですから、自分が描けるいちばん可愛い絵でやるべきでした。変にツッパって、ちょっとキモい絵にしたのは、若気の至りでしたね。それで売上も落ちていったんだと思います。……いつの時代も、気持ちのどこかに変に未練を残していて、うまく作品に取り組めなかったところはあります。
――今作はいかがですか?
福満 もう歳も歳なので、恥ずかしいとか言ってられません。読んだ人に楽しんでもらわないといけないので、ちゃんと頑張らねば、と思ってやってます。本当に何の規制もなく自由にやらせてもらっているので、そういった精神的な負担はまったくなくて、描いていて楽しいですよ。
「キャラクターに名前をつけることが恥ずかしくて…」
――先生のお気に入りのキャラクターは?
福満 主人公の凛子ちゃんですね。僕はいままでマンガのキャラクターに名前はつけてこなかったんですけど、それは、その……、「照れ」ですね。キャラクターに名前をつけることが恥ずかしくて、ずっと避けてきました。ですが、今回は担当編集者さんから「名前があったほうがいい」と提案されまして……。死ぬほどイヤだったんですけど。
――なるほど。そこでもひとつ「照れ」を乗り越えて。
福満 もともと「家族」を描くつもりだったので、主人公の女の子すら、名前のないモブのような扱いだったんですよね。でも名前をつけることになったので、最近の子供に多い漢字とかを、編集さんに調べてもらいました。