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「愛犬家連続殺人犯と親交が…」「5回も死体に出遭った」 稲川淳二が“テレビのいじられキャラ”から、“怪談話の第一人者”へと変異したワケ

「愛犬家連続殺人犯と親交が…」「5回も死体に出遭った」 稲川淳二が“テレビのいじられキャラ”から、“怪談話の第一人者”へと変異したワケ

『藝人春秋』より#1

2021/08/22

source : 文春文庫

genre : エンタメ, 芸能, テレビ・ラジオ, 読書, 働き方

note

5回も遺体を発見している稲川さん

 苦戦する相手ではないと思いつつ、資料を次々と当たるうちに、ボクは稲川さんが常人とは異なる、ある種のオカルト体質の持ち主であることに確信を持つようになった。

 資料を読めば、今まで稲川さんが、遺体を発見して警察に事情聴取されたことが、のべ5回もあるのだという。

 普通に生きていて、常人なら遺体発見の機会など人生に何度も遭遇するものではない。

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「ワタシね、不思議なことに、今まで5回も死体に出遭ってるんですよぉ」

 実は、この告白、ボクは遥か昔に、ご本人から直接聞いたことがあった。

 80年代後半、隆盛を極めていたTBSの視聴者参加型バラエティ番組『風雲!たけし城』。

 緑山スタジオに組まれた総工費1億円の大掛かりなセットを舞台に繰り広げられたアトラクションの数々は陽が暮れるまで延々と続き、稲川さんは「戦場リポーター」としてレギュラー出演していた。

 その時、ボクは毎回、従軍記者のように稲川さんに張り付いていた。

 なぜなら、当時、番組の構成作家でもあったダンカンさんの付き人をしていた関係上、なりゆきで番組制作にも関わっており、稲川さんに一般参加者の情報を伝える係をしていたからだ。

海に潜ったら、水死体の女性の髪の毛が…

 休憩時間になると稲川さんは、ボクのような下っ端にも気さくに話をしてくれた。

 そこで次々と事も無げに語る、実生活で経験してきた、あの世とこの世を行き来する死者との随伴エピソードは強烈なインパクトを放ち、また今と変わらぬ話術を当時からものにしていたことも忘れがたい。

写真はイメージです ©iStock.com

「これはワタシが学生の頃の話でしてね、仲間と一緒に西伊豆で夜釣りをしてたんですよ。夜も更けて夜中の3時頃だと海に行っても遠くに灯りがポ~ン、ポ~ンって見えるだけでね、辺りは真っ暗ですよ。ぜんぜん釣れなくてねぇ。悲惨だ、悲惨だなぁって。そのうち仲間は帰っちゃってワタシ一人だけ残ったんですよ。海ん中に、もう夜光虫がプワーッて光ってて気味が悪くてね。それで岩場で横になってたらいつの間にか寝ちゃったんですよ。それでね、どれぐらい時間が経ったのかなぁ、わからないけど、『おーい、おーい』って呼ぶ声で目が覚めたんです。でも辺りは真っ白なんですよ。手を伸ばした先が見えないくらい濃い朝霧でね。どうやら、おまわりさんが近づいてきた。その時に立ち上がったワタシのサンダルが海に落ちちゃったんです。慌てて海にもぐって、それ拾って浮き上がったらね、頭と顔にベッタリと海藻が絡まっているの。それが、やだなぁーやだなぁーって拭っても拭っても取れないもんだから、ウワーッて立ち泳ぎしながらもがいてね。そしたら目の前のおまわりさんが真っ青になって震えてるんですよ、ワタシを見て。なんだと思います? それ──海藻じゃなくて、女性の髪の毛だったんですよ! ワタシ、心中水死体の男女の間から顔を出してたんです。あとでおまわりさんに聞いたら、心中する2人が遺書を残して消えてたんですって。あれは驚いたなぁ……」

 当時から絶品の語り口だった。

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