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ゲストのトラウマを探り、深層心理をあぶり出す

 ゲストは、タイムスリップしながら過去の自分とマンツーマンで語り合い、現在の自分が解体され、未見の自分を垣間見る。そして自意識との自問自答の末、いつの間にか涙腺がゆるみ始め、最後にはカメラの前で涙を流し出す。

 たっぷりと時間をかけた収録で、心の襞を追ううちにゲストが我を忘れ──滂沱の涙に至る。

 しかしそれは安易なお涙ちょうだいの泣き芝居ではない。番組ラストの“号泣”には心理ドラマのプロセスの果てに訪れるカタルシスがあった。

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 その深層心理の詰め将棋の棋士役がボクたちである。

 事前にゲストタレントの膨大な資料を渡され、丁寧に行間を読み込み、相手をプロファイリングすることでゲストのトラウマに辿り着くのが下準備であり、最後に密かに準備した持ち駒を、王手よろしく決め打ちするのがマスクマン必須のテクニックだ。

 必然、タレントとして表向きにお披露目しているプロフィールの、裏の裏側にまで大胆に立ち入り、心の奥底に潜り込み、深淵に触れられるかどうか、王手の強度、深度が鍵となる。

 毎回、それぞれのゲストが印象深かったが、そのなかでも稲川淳二さんの回を、ボクは今も忘れることができない。

 稲川淳二──。

©文藝春秋

稲川さんが「こわい話」を始めた動機を探る

 今や、ビールに合うのは枝豆か稲川か? とまで言われるほどの夏の風物詩であり「霊界のTUBE」、怪談の名手である。

 かつてはテレビのいじられキャラ、リアクション芸の王様であった稲川さん──つまり生体実験という実存そのもの──が、いつからあの世を語る怪談話の第一人者へと芸風が変異していったのか?

 ボクたちの事前調査のファーストアプローチは、稲川さんが「こわい話」を始めた動機を探ることだった。

 それは、お笑い芸人としての処世術、そろばんずくの身過ぎ世過ぎにすぎないのではないのか?

 しかも、当時、稲川さんは怪談盗作疑惑の渦中にもあったので、この話題に触れれば、本番中に心理を搔き乱し、やりこめるのには、もってこいのネタであった。

〈稲川さんなら、どんな手厳しい技でも受けてくれるだろう〉