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「ほんとうに子供を殺そうと思いましたからね」 稲川淳二が語った“難病を抱えた次男”と“妻との別居”

「ほんとうに子供を殺そうと思いましたからね」 稲川淳二が語った“難病を抱えた次男”と“妻との別居”

『藝人春秋』より#2

2021/08/22

source : 文春文庫

genre : エンタメ, 芸能, テレビ・ラジオ, 読書, 働き方

家庭での自虐ネタがバタッと途絶えた

 稲川さんの芸風で一時は「尚子は天下の悪妻です」と、自分の奥さんをネタにした恐妻家芸も売り物のひとつであった。

「ワタシ、家に帰ると、カミさんに本気で殴られる」

「家に帰っても自分のメシがなく栄養失調で倒れた」

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「スタッフと家族が、ワタシに内緒でスキーに出かけていた」

 仕事場での、いじめられっぷりだけでも十分芸の域に達しているのに、家庭でのいじめをも曝け出し、骨身を削り尽くす、自己犠牲の美学は、自ら黄熱病に倒れた稲川淳二のソックリさん、野口英世の献身性をも彷彿とさせるほどだ。

 そして、尚子夫人との別居騒動に対しても、変わらぬ姿勢で自虐的にコメントしている資料も多かった。

写真はイメージです ©iStock.com

 悪妻キャラには、もはや異論を挟む余地が無くなり、悪妻ネタの引き出しも増え、特にネタ的に女性誌受けしているせいか次から次へとプライベートを暴露している。

 当然のことながら、日頃、女性誌を読む習慣がないので、ノーマークであった。

〈なるほど、この悪妻ネタも『マスクマン』で使えるだろう〉─―と思いつつ、さらに奥さん関係の記事に目を通し時間軸を追っていくと……途中でバタッと家庭の自虐ネタがなくなる。あれ、どうして? と思っていた矢先に『女性自身』2001年7月3日号のルポに目が止まった。

 そこには『稲川淳二の妻“難病”の子育てを語る!』と題されていた。

 この記事は「新シリーズ人間」という読み切り企画で直木賞作家の重松清が田村章のペンネームで長く連載するヒューマン・ドキュメンタリーだ。

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