1ページ目から読む
3/5ページ目
家庭での自虐ネタがバタッと途絶えた
稲川さんの芸風で一時は「尚子は天下の悪妻です」と、自分の奥さんをネタにした恐妻家芸も売り物のひとつであった。
「ワタシ、家に帰ると、カミさんに本気で殴られる」
「家に帰っても自分のメシがなく栄養失調で倒れた」
「スタッフと家族が、ワタシに内緒でスキーに出かけていた」
仕事場での、いじめられっぷりだけでも十分芸の域に達しているのに、家庭でのいじめをも曝け出し、骨身を削り尽くす、自己犠牲の美学は、自ら黄熱病に倒れた稲川淳二のソックリさん、野口英世の献身性をも彷彿とさせるほどだ。
そして、尚子夫人との別居騒動に対しても、変わらぬ姿勢で自虐的にコメントしている資料も多かった。
悪妻キャラには、もはや異論を挟む余地が無くなり、悪妻ネタの引き出しも増え、特にネタ的に女性誌受けしているせいか次から次へとプライベートを暴露している。
当然のことながら、日頃、女性誌を読む習慣がないので、ノーマークであった。
〈なるほど、この悪妻ネタも『マスクマン』で使えるだろう〉─―と思いつつ、さらに奥さん関係の記事に目を通し時間軸を追っていくと……途中でバタッと家庭の自虐ネタがなくなる。あれ、どうして? と思っていた矢先に『女性自身』2001年7月3日号のルポに目が止まった。
そこには『稲川淳二の妻“難病”の子育てを語る!』と題されていた。
この記事は「新シリーズ人間」という読み切り企画で直木賞作家の重松清が田村章のペンネームで長く連載するヒューマン・ドキュメンタリーだ。