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「人の病気や哀しさを活字にして、泣けるなんて言われると…」 水道橋博士が50歳の区切りで感じた、理不尽な“幸不幸”

「人の病気や哀しさを活字にして、泣けるなんて言われると…」 水道橋博士が50歳の区切りで感じた、理不尽な“幸不幸”

『藝人春秋』より#3

2021/08/22

source : 文春文庫

genre : エンタメ, 芸能, テレビ・ラジオ, 読書, 働き方

note

誰にも幸も不幸もついて回る

 それでね、稲川さんは、今は全然バラエティに出ていないでしょ、それも謎だったんですけど、もう「テレビのお笑いの仕事やめた」って書いてあるんですよ─―。

「芸能人っていうのは、身内に不幸があっても笑ってなきゃならない。陰でどれだけ泣いても苦しくても、テレビでは『はいどうも~』って、笑わせなきゃならない。もう、やかましいぐらいよくしゃべって、『あんた明るいねぇ』なんて言われていましたね。

 でももうやめました。自分を殺してまで笑いの仕事をするのはやめよう、と。今は怪談のほか、バリアフリーの講演とか、街頭や駅で障害者に対する理解を訴えたり、応援したりしています」

©文藝春秋

 ってね、稲川さんが話されてて、これ新聞で読んでるんですけどね。その活字が稲川さんの声そのものに聞こえるんですよ。ワタシもね、ちょうど、50歳になる直前で、男の更年期ってやつですかね。弱ってましてね。ずっと大震災だとか、原発事故なんてこともあってね、自分も“原発芸人”って非難されたりしてね、疲れちゃって、もういいやって。50の区切りで、いっそ、お笑いを「引退」なんてことを考えてましてね、家族で海外移住しようって。でも、逆にね、もともと「身内に不幸があっても笑ってなきゃならない」あらためて、そういう職業なんだなんて、「陰でどれだけ泣いても苦しくても、テレビでは『はいどうも~』って、笑わせなきゃならない」そういうものじゃないかって。むしろ、プラスの力がね、このとき見えたんですね――。

「一般の方々にも分かってほしいですね。私が街頭や駅頭で一生懸命しゃべっても、『うるせえなぁ』という顔をして無視する人がほとんどです。誰も聞いてやしない。

 私も次男のことがあるまでは、ひとごとだと思ってた。でもみんな年をとれば、どこかしら障害が出てくると思うんですよ。足が動かないから、車いすが欲しいとかね。障害者の問題は、特別なものじゃない。いつ、だれにでも起きうる問題なんです」

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 みんな同じなんですよ──。誰にも幸も不幸もついて回るんですよね。歳だから明日、ボクに理不尽に降りかかるマイナスだってあるんだって。50になる前にボクも大病して、いろんなところにガタがきてるんです。

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