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人を幸せにさせるプラスの力
その“あること”はあの話に違いない。
ここを問い詰めるべきか否か、ボクたちも押し黙った。
スタジオが無音となり、無色透明になった。
静寂(しじま)の中で、稲川淳二がまるで何かに憑依されたかのように口を開いた。
「実は15年前に、仕事とは関係ないところで、とてもイヤなことを当てられたことがあるんです。自分より辛いことね。……子供のことですよ。海外の霊能力者から予言されたんですよ……」
「……予言?」
「まだ生まれてくる前の息子が『重病で生まれてくる』って……」
「…………」
「当たったんですよぉ──。イヤな気持ちになりますよね。なぜ、自分にこんな予言が当たってしまったんだ……悩みましたよ。でね、そこで考えたんだ。なぜそれが見えるんだって。このマイナスがわかったんだってね。でもね、何か力、エネルギーがあるんだったら、つまり人間を不幸な気持ちにさせる力があるのなら、幸せにさせる力があってもいいはずだと思ったんです。マイナスがあればプラスがあってもいいはずだって。そうじゃないですか?」
「…………」
「ワタシはね、怪談話をして、そのプラスを探したいんですよ!」
その搾り出すような声を聞いたとき──。
決して辿り着けない、怪談芸人という底無しの井戸の深淵を覗いた気分になった。
(初出・『笑芸人』2002年冬号)