「交通の流れ」が優先されることはないのか
「譲ってきた歩行者をいちいち先に行かせていたのでは、後ろが詰まってしまう」という声もあるだろう。真っ当な話ではあるのだが、一人のドライバーの判断で「法律と異なる動き」をすることは、たとえ「円滑な流れ」が目的であったとしても、法的には認められないようだ。
「交通の『流れ』というのはもちろん重要です。しかし一方で、道路交通法には『流れ』という概念は一切存在していません。法律上は、『自動車の交通の流れをスムーズにするため』といって、条文を逸脱した運転をすることは全く許されていないわけです。
そもそも、道交法の目的に『交通の円滑を図ること』というポイントがありますが、自動車に限らず、歩行者や自転車などによる『交通の円滑』も含む概念と考えられます(道交法10~15条では『歩行者』の義務が定められています)。その意味で、自動車ではなく、歩行者を優先した『円滑な交通』のために、横断歩道の手前での減速および停止義務などが定められた道交法38条が存在すると解釈するべきでしょう。
また、『円滑な交通』を保つための例外的な行動を許されている主体は、『警察』しか想定されていません(道交法75条の3など)。繰り返しになりますが、市民が『円滑な交通を維持する措置』として、法規を逸脱することはできないんですね。いうなれば、道交法を順守することこそが『円滑な交通』に資する措置というべきでしょう」(同前)
パッシングで道を譲るのはOK?
ところで、横断歩道の例に限らず、「通行を優先される側が譲る」というケースでは、譲られた側は「道交法と異なる形」で通行することになる。たとえば、狭い道路から優先道路に入る際に優先道路側から譲ってもらうケースや、右折待ちをしていて対向の直進車からパッシングなどで先に行くよう促されるケースが考えられる。
法律の文言上は、これらのケースと横断歩道のケースとを比べてみても、ドライバーの義務に大きな違いはないように思える。
横断歩道の歩行者に対する義務は、「その通行を妨げないようにしなければならない」という書き方で規定されている。一方、優先道路を通行する車に対しては「進行妨害をしてはならない」、右折時の対向車に対しても「進行妨害をしてはならない」という文言であり、明確な差を見出すことは難しい。
道路交通法38条
横断歩行者等妨害等違反:横断歩道等によりその進路の前方を横断し、又は横断しようとする歩行者等があるときは、当該横断歩道等の直前で一時停止し、かつ、その通行を妨げないようにしなければならない
道路交通法36条
優先道路通行車妨害等違反:交差道路が優先道路であるとき、又はその通行している道路の幅員よりも交差道路の幅員が明らかに広いものであるときは、当該交差道路を通行する車両等の進行妨害をしてはならない
道路交通法37条
交差点優先車妨害違反:交差点で右折する場合において、当該交差点において直進し、又は左折しようとする車両等があるときは、当該車両等の進行妨害をしてはならない