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“道交法”は理不尽なのか…「横断歩道で歩行者に譲られたから発進」は違法!? 警察による取り締まりの“本当の狙い”とは

2021/09/04

genre : ライフ, 社会

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「譲っている歩行者」は「横断しようとする歩行者」なのか?

 とはいえそもそも、車に進路を譲っている歩行者は「横断しようとする歩行者」にあたるのだろうか。

「『横断しようとする歩行者』の定義が争点となった裁判は少ないですが、一つの判例として、横断歩道上で立ち止まり、車の様子を窺っている歩行者も『横断しようとする歩行者』と判断されたケースがあります。横断歩道の側端や近辺で立ち止まっている場合であっても、『横断しようとする歩行者』と判断される可能性は高いと考えられます」(同前)

 しかし、「横断歩道上で足を止めた歩行者」と、「譲る意思を示している歩行者」とは違うように思える。

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「歩行者が譲っている状況をめぐる判例はないので確定的ではありませんが、『行くのをやめた』と『譲っている』というのを厳密に区別するのは困難でしょう。譲っていたとしても、その後に横断しようとしているわけですし、その意味で『横断しようとする』歩行者であるという点はゆるぎないと考えられます。

 また、実際上、『譲っていたけど、車が止まったから、やっぱり進み出す』といった可能性もゼロではありません。『譲っている歩行者は横断しようとする歩行者にはあたらない』という解釈は通らないと考えられます」(同前)

 ドライバー側は歩行者のジェスチャーにかかわらず、常にその歩行者が「横断しようとしている」と想定しなければならない、というのが法律に則した考え方となるわけである。

「譲られて進むのは適法」と解釈する余地もあるが……

 とはいえ、「横断歩道で歩行者から譲られて進む」というのは、ドライバーの感覚的には「当たり前」の行為である。

「解釈の余地があるとすれば、条文の『通行を妨げないようにしなければならない』という箇所かもしれません。『通行を妨げる』というのは、通常の速度で歩いている歩行者を減速させたり、立ち止まらせたりすることを言います。歩行者が譲る意思を明示して止まっているのだから、そもそも『通行』していないし、当然『通行』を妨げてもいない、という解釈ですね。

 しかし、これはあくまで解釈の可能性レベルの話です。仮に裁判になったとして、車側がきちんと一時停止していたことが明白であり、かつ、譲る意思について歩行者側の証言があれば、争う余地はあるかな、という程度の私見です。条文と判例から見れば、『歩行者がいれば絶対に渡り切るまで動くな』ということになってしまうかと思います」(同前)

 やはり法律上は、横断歩道では歩行者に譲られても先に進んではならない、という解釈が妥当であるようだ。

「もちろん、この条文が現実と乖離してしまうケースもあると思います。たとえば、ひっきりなしに歩行者が来るような横断歩道では、法律の文言をそのまま守っていれば進めなくなってしまいますし。ですが、これは法律の欠陥というよりも、横断歩道に信号を設置するかどうかなど交通整理等の現実的な措置の問題になるのかな、と思います」(同前)