これだけ見ると、歩行者に譲られて進むことが「通行を妨げる」ことになるのであれば、優先道路側の車から譲られて進むことが「進行妨害」と見なされてもおかしくはなさそうだ。
言い換えれば、歩行者に譲られて進むことを「違法」とすることは、道路状況に応じて行われるさまざまな「譲り合い」を「違法」とすることと同義なのではないか、ということである。
「車対車」と「車対歩行者」の扱いは異なる
しかし、横断歩道における譲り合いと、優先道路や右折時など車同士の譲り合いとでは、取り締まりの基準に違いがあるのだ。
「文言は似ているなのになぜ」と考えてしまうが、現実の交通事情をふまえた場合の差異として、警視庁担当者は「免許の有無による認識の違い」を挙げていた。車両同士であれば、道交法の理解度についてある程度共有されていることが想定され、パッシングなどによる「ドライバー間のコミュニケーション」も成り立ちやすい。
一方で、歩行者には当然子どもや免許を持っていない者も含まれるのであり、「互いがどう動くか」が不明瞭なケースも多くなる。それゆえに、「リスクの大きな歩行者側を最大限優先する」ことが、法律の運用において強く意識されるということらしい。
「歩行者優先」を浸透させるには、厳しい取り締まりも止むなし?
警察官によっても、法律の理解度や解釈はさまざまだ。「どのケースにどの条項が適用されるか」を機械的に判定することは不可能であり、取り締まりの基準には一定のブレが生じるだろう。あるいはその「ブレ」を利用して、恣意的な取り締まりを行う警察官もいるのかもしれない。
昨年には北海道警察の警部補が、対象車両の速度を不適正な方法で測定し、速度違反をねつ造したとして逮捕された。この警部補による不正な取り締まりは47回にもわたり、「常習的に違反をでっち上げる警察の存在」を市民に疑わせる結果となっている。
一方で、「警察の取り締まりに不適切なケースがある」という事実は、当然ながら「道交法を守らなくてもよい」という帰結をもたらすものではない。
今回取り上げた「横断歩道では歩行者優先」というルールは、交通弱者たる歩行者の安全を確保するうえで、捨て置くことのできない大原則である。これが当たり前のように無視されている現状を鑑みれば、ドライバーが「譲られても進まない」という意識を抱くくらいに取り締まりを強化することにも、妥当性を認めることができるのではないだろうか。