「蚊も人も俺にとっては変わりない」「私の裁判はね、司法の暴走ですよ。魔女裁判です」。そう語るのは、とある“連続殺人犯”である。
“連続殺人犯”は、なぜ幾度も人を殺害したのか。数多の殺人事件を取材してきたノンフィクションライター・小野一光氏による『連続殺人犯』(文春文庫)から一部を抜粋し、“連続殺人犯”の足跡を紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)
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CASE3 鈴木泰徳
福岡3女性連続強盗殺人事件
2005年3月に発覚。04年12月から05年1月にかけて、トラック運転手の鈴木泰徳(35)が福岡県で3人の女性を相次いで殺害した事件。3件とも無差別で強姦・強盗目的で忍び寄り(強姦に至ったのは1件)、最終的に殺害するという残忍極まりない犯行であった。にもかかわらず鈴木は犯行前後も通常業務をこなしていたが、被害者の携帯電話を使用していたことで犯行が発覚し逮捕。後にその携帯電話で出会い系サイトを利用していたこともわかった。11年に上告が棄却され、死刑が確定した。
福岡拘置所にいる鈴木を訪ねた
その男は3人の女性を殺(あや)めていた。
問われた罪は、1人目の被害者に対しての強盗強姦・強盗殺人罪。2人目には強盗殺人罪と銃刀法違反罪。そして3人目は強盗強姦未遂・強盗殺人罪と銃刀法違反罪─。
男の名は鈴木泰徳(やすのり)、36歳(逮捕時は35歳)。
私は2005年6月の初公判の後に、福岡拘置所にいる鈴木を訪ねた。その凶悪な犯行内容から、粗暴な男だと思っていた。だから事前に手紙等でのアポは取らず、いきなり会いに行ってみようと思った。
受付に面会理由を「安否うかがい」と書いた申込書を渡す。番号札を貰い、断られることを予想しながら待合室にいたところ、「××番の札の方、×号面会室へ」と、私の番号が呼ばれたので、素直に驚いた。通常、面会を断る場合には、面会室に呼ばれることなく、受付で会わない旨を伝えられるからだ。
面会室に入って背後の鍵をかけ、立ったまま鈴木が入ってくるのを待った。アクリル板の向こうの扉には、横長の覗き窓がある。まず刑務官がその窓から見て、私がいることを確認した。続いて鈴木の目が窓枠のなかに現れ、こちらに向けられた。くりっとした、意外に大きな目だ。目が合うと私は軽く会釈(えしゃく)した。