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「純粋、素直、真面目。こんな子が…」

「パートで新聞の配達中だったんですけど、公園の中になにか転がってると思って近づいて目を凝らしたら、人だったんです。遺体は仰向けに倒れていて、顔が腫れあがり、鼻血を出していました。お腹のあたりが血だらけで、下半身は下着まで脱がされて丸見えになっていました。それがあまりにかわいそうで、持っていたスポーツ新聞をその上にかけて、携帯で110番に電話したんです。時間は午前7時24分でした。遺体から離れた場所には、パンティと靴下が片方、あと、彼女が着ていたオーバーのボタンが落ちていました。警察の人はすぐにやって来ました」

 翌日からの取材で、祥子さんの職場や交友関係などを捜査機関が調べたところ、怨恨(えんこん)による事件の可能性は薄いことが判明。さらに彼女の人物像も、次第にはっきりしてきた。

 北九州市の公立大学と並行して同市の航空専門学校にも通っていた祥子さんは、キャビンアテンダント(CA)を目指していた。一度は挫折を味わうが、大学卒業後もCAへの夢を諦めきれず、契約社員として福岡空港で飛行機に乗るためのボーディングブリッジを操作する仕事をしながら、ふたたび航空専門学校に通うための費用を貯金していた。同専門学校の理事長は、当時の取材に「純粋、素直、真面目。こんな子が今どきいるのかと思うような子だった」と語っている。

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©️iStock.com

 わずか1月ちょっとの間に、福岡県下で将来への夢を抱いて頑張る、2人の若い女性の命が奪われるという事件が続いた。

 ともに遺体は公園で発見され、着衣に乱れはあったが、前者は首を絞められて所持品は残され、後者は刃物で切り付けられて所持品を持ち去られていた。

 飯塚市から福岡市までは約40キロメートルと、犯行現場が離れていることに加え、殺害方法が異なり、さらには強盗の有無という違いもあった。それらの要素から、当時、私のなかで2つの犯行が結びつくことはなかった。(#12に続く)

連続殺人犯 (文春文庫)

小野一光

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