「蚊も人も俺にとっては変わりない」「私の裁判はね、司法の暴走ですよ。魔女裁判です」。そう語るのは、とある“連続殺人犯”である。

 “連続殺人犯”は、なぜ幾度も人を殺害したのか。数多の殺人事件を取材してきたノンフィクションライター・小野一光氏による『連続殺人犯』(文春文庫)から一部を抜粋し、“連続殺人犯”の足跡を紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)

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CASE3 鈴木泰徳

福岡3女性連続強盗殺人事件

配送中に殺人

「小野さん、福岡の事件で動きがありました。福田祥子さん(仮名)の携帯電話を持っていた直方(のおがた)市の男が、今日の未明に占有離脱物横領容疑で逮捕されたようです……」

 大阪での取材を終えた私の携帯に、福岡市の事件で世話になった地元の記者から連絡が入ったのは、その年の3月8日昼のこと。殺人での再逮捕があるならば、行き先を福岡に変更したほうがいいと頭を巡らせていた私に、記者は言葉を重ねた。

「それで、その男は福岡の事件だけでなく、飯塚の事件と、あともう1つ、北九州で昨年末に起きた事件にも関与しているようなんです」

「ええっ!」

 思わず声を上げた。それはまさに青天の霹靂ともいえる話だった。礼を言って電話を切り、新大阪駅では迷わず博多行きの切符を買った。

©️iStock.com

 北九州の事件とは、04年12月31日の早朝、同市に住むパート主婦の大倉聡子さん(仮名・当時62)が、勤め先のスーパーに向かう途中の路上で、何者かに刃物で背中と腹を複数箇所刺されて死亡したというもの。発生時に取材はしていなかったが、大倉さんが持っていた現金(後に6000円と判明)の入ったバッグが奪われており、殺意が認められれば強盗殺人という事件だった。

 そこで逮捕された男というのが、直方市に住む“土木作業員”の鈴木だった。彼には妻と幼い子供2人がいるという。

 地図上では、事件が起きた飯塚市、北九州市、福岡市を線で結んだ三角形の中心に、鈴木の住む直方市がある。さらにそれぞれの犯行日を振り返ると、12月12日(午後11時半ごろ=犯行予想時刻、以下同)、12月31日(午前7時ごろ)、1月18日(午前5時半ごろ)と、ほぼ一定の周期だった。