底知れぬ無自覚
自宅周辺の聞き込みでは「子煩悩で、子供を連れてよく出かけていた」という話や、「腰が低くおとなしい感じだった」などという話も出てきたが、それ以外に聞こえてくるのは、ほとんどがネガティブな内容だった。それも“借金”と“女”にまつわる話ばかりだ。さらにそこに“キレる”という要素も加わる。
そもそも、鈴木が犯人として浮上したきっかけと、身柄確保時の状況からして異常だった。知人の記者は呆(あき)れ顔で話す。
「鈴木は祥子さんから奪った携帯を使い、出会い系サイトなどのアダルトサイトに頻繁にアクセスしていました。その理由は『通信料が惜しかった』というもの。携帯電話の電波で位置が特定できることを知らずに使い続けたため、2月中には容疑者として浮上したのです。ちなみに、パチンコやスナック遊びなどで多額の借金を抱えていた鈴木は、看護師の妻から愛想を尽かされ、夫婦生活を拒絶されていました。身柄を確保されたときも、借金のことで責められるのが嫌で自宅に帰れず、近くに停めた自家用車内で、祥子さんの携帯からアダルトサイトに接続している最中でした」
もしこれが下着泥棒の犯人がとった行動であるならば、“愚か”の一言で片付けることもできるが、3人の命を奪ったあとの行動なのである。私は鈴木のその底知れぬ“無自覚”に、ただならぬものを感じた。
鈴木は直方市の南に位置する町で、自動車整備工場を経営する家に生まれた。直方市内の中学校から鞍手(くらて)郡宮田町(現:宮若市)にある公立の農業高校を経て、自動車関係の専門学校を卒業してからは、04年5月まで実家の整備工場で働いていた。
高校時代の同級生によれば鈴木は「そんなに目立つタイプではなかった」そうだが、印象に残っていることがあるという。