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《自爆テロで死傷者200人超》アフガニスタンの命運を握る“8人の男たち”「彼らの権力闘争次第で『最悪の事態』も」

《自爆テロで死傷者200人超》アフガニスタンの命運を握る“8人の男たち”「彼らの権力闘争次第で『最悪の事態』も」

2021/08/27
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 こうした背景から、アクンザダは最高指導者といっても、その権威は絶対ではない。今後、アクンザダが新政権トップの最高指導者となることは既定路線だが、最高指導者といっても彼は、本来は宗教指導者であり、新政権の政治面でどういった役割を果たすかは不明だ。また、そんな“神輿”的立場で、さまざまな有力者が集まっているタリバンの全体をどれだけ掌握できるかも不透明である。

 なお、アクンザダ自身はこれまで数度、暗殺未遂に遭ったこともあり、姿をしばらく現していない。そのため一部に「すでに死んでいる」との噂すら流れているほどだが、それはさすがに根拠のあるような話ではないようだ。

命運を握る“穏健派”の次期大統領候補

②「穏健なタリバン」を演出する次期大統領候補
 アブドル・ガニ・バラダル 

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アブドル・ガニ・バラダル ©getty

 現在の「穏健なタリバン」路線を打ち出している、タリバン政治担当副指導者だ。

 タリバン指導部では最高指導者の下に、公式に3人の副指導者が任命されているが、現在のタリバンで、その政治的スタンスを主導しているのがバラダルだ。彼はタリバン創設時からの重鎮で、組織内の中枢で大きな影響力を持っていると推測されている。

 彼はもともとタリバン創設者のムハマド・オマルの盟友で、タリバンの共同創設者となった。1996年からのタリバン政権時代にいくつかの州知事や軍司令官を歴任。とくにカブール地区司令官や国防省幹部として圧政を主導した1人でもある。

自前の兵力はゼロ 内部を掌握できるか

 しかし、2001年に米軍がタリバン政権を撃破すると、同族でもある親米派の当時のカルザイ政権と降伏交渉を進めたが失敗。その後、2009年に再びカルザイ政権と和平交渉を秘密裏に進めたが、それを阻止したいパキスタン軍情報機関により2010年にパキスタンで逮捕された。

 だが、米軍撤退のためにタリバンとの交渉を望んだ米トランプ政権の働きかけで2018年に解放され、カタールの首都ドーハにあるタリバンの対外代表事務所のトップに就任。以後、対外交渉を主導してきた。つまり、現在のタリバンの交渉路線は、バラダルが主導してきたことになる。

 今後、タリバン新政権はバラダルを中心に運営される公算が高い。どういう形式になるかは不明だが、いわば大統領職のような地位に就く可能性が高いだろう。

 しかし、現在のタリバン指導部での発言力は、外部からは見えない。また、あくまで政治担当であり、自前の兵力は持っていないため、どこまでタリバン内部を掌握できるかは未知数だ。