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兵庫の山奥にある中小企業に世界が注目…「アラジンのトースター」を生み出す“ナゾの工場”に潜入してみた

兵庫の山奥にある中小企業に世界が注目…「アラジンのトースター」を生み出す“ナゾの工場”に潜入してみた

2021/09/06
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 兵庫県は姫路から車に乗って田んぼと山に囲まれた道路を走ること1時間。日本の原風景ともいえる田園風景の中に、山を背にする中小企業がある。その名は株式会社千石。しかし普通に生活している限りその名前を耳にすることはなく、「誰も知らない会社」と言ってもいいだろう。

 しかしアラジンのトースターと言えばどうだろう? おそらくテレビや家電量販店で誰もが見たレトロなデザインのトースターが目に浮かぶだろう。

住宅地の中に突如現れるSENGOKU
千石という会社名より、アラジンのトースターとして有名

156万台出荷された“驚異的なトースター”

 10万台売れれば大成功と言われるトースターにおいて、2016年の発売以来、累計出荷台数は156万台(2021年7月現在国内外含め)と驚異的な人気を誇る。その前には大手電機メーカーすら及ばないほどだ。

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 国内だけで見ても驚異的。2019年の総出荷台数は210,821台だったが、昨年2020年は408,286台と倍近く出荷台数を伸ばしているのだ。2021年7月に発売されたポップアップ式トースター(焼き上がると飛び出すタイプ)は、ファーストロットが一瞬で完売。その後も新たなロットが出荷される都度、品切れを繰り返すほどの人気だ。

 千石は、ストーブやトースターなどのアラジンの製品を製造している会社だ。もちろん売り上げも好調で、2021年の見込みは63億円と昨年の48億を大きく越える。

千石の自社製品の売り上げ推移。2017年ごろから売り上げを伸ばし始め、昨年は爆発的な伸びを見せた

 しかも先のグラフを見ると「自社」の文字が。千石はアラジンブランドで自社製品を展開する中、誰もが知る家電メーカーのOEM(Original Equipment Manufacturing。他社ブランド製品の受託生産)を請け負っており、こちらも堅調に売り上げのベースを築いている。

 その売上高は自社製品とOEMを含めおよそ150億円(2019年)という。自社ブランドの売り上げが急増している昨今、2020年の総売上高は公表されていないが推して知るべしだ。

 兵庫の山奥にある“誰も知らない会社”が、なぜここまで急成長を遂げているのか。大手電機メーカーが太刀打ちできないほどの技術力の秘密は一体何なのか。その真相を探るべく、私は千石の本社に向かい、その心臓部である工場を訪れた。