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「グラファイトヒーター」が成長エンジンに

 そこに第2のターニングポイントが到来する。それは同社が特許として持つ「グラファイトヒーター」だ。ニクロム線のヒーターに替わるものとして、ある大手電機メーカーが開発を進めていたが、どうしても事業を続けられない諸事情があり撤退。それを知った千石は「ウチなら画期的な製品ができる!」として特許を買い取り、大手ができなかったヒーターの改良にも成功した。今や、千石の成長エンジンとなっている。

 トースターでニクロム線のヒーターを使うと、ヒーターは均一に温まる。その点は優秀なのだが、製品に組み込むと、ヒーターの中央部分は熱がこもって高温に、一方で両端は温度が低くなってムラができてしまう。

一般的なニクロム線のヒーター(上)は温まるまで時間がかかり温度も800℃程度。グラファイトヒーター(実際には透明なガラス管の中に入る)は0.2秒で1,300℃まで熱くなる
グラファイトヒーターは発熱体にパターンを刻むことで1本のヒーターで複数の温度帯が作れる

 しかしグラファイトヒーターは印刷と同じような技術を使い、1本のヒーターでも狙い通りの温度差をつけられるので、製品に組み込んだときに温度ムラを少なくできるのが特徴だ。

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 しかも0.2秒で1,300℃まで熱くなり、モノの表面に熱を伝える遠赤外線と、物の中まで熱が浸透する近赤外線が出るので、トーストはもちろんピザの再加熱やフライの温め、電気ストーブにも最適。このように汎用的で千石でしか製造できないグラファイトヒーターは、現在3交代制で24時間稼動、さらにロボットも導入して、月間7万3000本を製造できる能力を持つが、それでも需要に追いつけないほどだ。

 
 
心臓部のグラファイトヒーターは本社に設置されている工場で作られ、全量検査して出荷される

ヨーロッパや中近東にも石油ストーブを輸出

 千石の工場を見て回っていると、あちこちに国内では見かけない暖房機器の箱がある。実は千石は、ヨーロッパや暑いと思われている中近東にも石油ストーブを輸出している。その取引先は、中国、香港、台湾、韓国、シンガポール、フィリピンなどのアジア各国から、アメリカ、南米チリ、ベルギー、イラク、イランとかなり広範囲。

イラク向けの石油ストーブ「アルパカ」と「ターボ」。「OSAKA JAPAN」と誇らしげに印刷されている(OEM生産)

 国内製造拠点も本社近くの上野、宮前工場は板金などプレス加工、隣の西脇市にはストーブのブルーフレームとOEMの生産拠点を持つ。さらに2021年5月には本社近くの「加西インター産業団地」に新工場用地を取得したと発表。新たな生産拠点とし、アラジンの製造拠点となる予定だという。