破竹の勢いで急成長する株式会社千石が大手メーカーと決定的にことなるのは、本社の開発・設計部門と製造部門が物理的に近く、さらには営業やユーザーサポートもまとまっているので、Plan Do Check Actionのサイクルも早い点だろう。
トップシークレットで見学できなかったテストセクションも本社内にあり、設計・金型・製造・組み立て・検査で各セクションが「最高品質」を求めている姿が印象的だった。
「あえて中小企業」という選択
世界を相手に大規模に事業展開している千石だが、実は従業員数が290名と少なく、いわゆる中小企業にあたる。トースターの大ヒットやアラジンブランドの浸透で、いまや通勤に1時間近くかかる神戸や三宮から通う社員もいれば、地元の優良企業として新卒の入社希望も多いとのこと。しかし会社規模を大きくしようとは考えていないという。社長の千石唯司氏はこう言う。「“中小企業”であり続けることが千石」であると。
それはなぜか? 確かに大企業になれば税制面や組織、意思決定などでさまざまな縛りや歪みが出てくるが、理由はそれだけではないと断言する。中小企業であり続けるメリットの一例が、若い人材が即現場投入され、実践で鍛えられるという点だ。大手の記者発表ともなれば、相当の役職が登壇するものだが、千石では表に立つのは20~30代若手社員。むしろ役職者は裏方で個々の記者に説明してまわるという類稀なる光景に驚く。
生産現場も同様で若手は古株から技術継承され、即現場投入されるという。ともすれば職人が多く若手が萎縮しがちな経験と技術の会社なのに、自由な発想で新しいものを生み出す千石は、若手と古株がいい関係で対等に仕事をしているようだ。
企業として売り上げを伸ばしていくためには、仕事を増やして人員も増強するのがセオリーだが、現時点での千石の場合はOEMから自社製品へのシフトで対応しているという。とはいえ海外に大規模生産拠点を3つ抱え、設計から開発、部品の製造から調達、最終アッセンブリまでワンストップでできる千石の魅力は残したままで、OEMもまだまだ堅調のようだ。
ワールドワイドな展開、そしてグラファイトヒーターという成長エンジンで今後も大きくなる株式会社千石。しかし「株式会社千石らしくあるためにはこれからもあえて中小企業」という言葉は、筆者には物理的な意味での“中小企業”ではなく、「社員ひとり一人の心持ちが“中小企業”のように物事をとことん突き詰め果敢に挑戦するヒトであれ!」と聞こえた。
撮影=藤山哲人