「バルミューダ」と双璧をなす「アラジン」
高級トースターとして名を馳せる「バルミューダ」と双璧をなす「アラジン」。アラジンの製品を製造しているのは千石だが、ホームページなどを見ると、アラジンの製品は「日本エー・アイ・シー株式会社」の製品となっている。これには少し複雑な事情と千石のモノづくりに対する考えが大きく絡んでいるので、少し説明しておこう。
アラジン社はもともとイギリスの石油ストーブ会社で、その日本法人が日本エー・アイ・シーだ。当初は英国から製品を輸入していたが、日本法人の設立を機に国内生産を開始。製造先を求め渡り歩き、最終的にOEM生産を担ったのが金属プレス加工技術で定評のあった千石だ。石油が完全燃焼し灯油臭くなく、青い炎を出すストーブとして高い評価を受け「ブルーフレーム」と称したストーブは、イギリスで製造が始まってから90年近く経つ今も同じデザインを継承し人気の製品となっている。
しかし諸般の事情により日本エー・アイ・シーが会社を畳むことになり「人気のストーブをみすみす製造中止してしまうのはもったいない」と、千石が日本エー・アイ・シーを完全買収した。つまり現在は日本エー・アイ・シー=千石というワケだ。
それ以降、千石のオリジナル製品のブランド名として「アラジン」が使われるようになり、もとはストーブのアラジンだったが、そこからトースターをはじめとした調理家電メーカーとして世に知られることとなった。
三洋電機の下請けから始まった“モノづくり集団”
最近になって一躍有名になった「アラジン」ブランドの一方で、国内電機メーカーにも名を馳せている「株式会社千石」。創業は1953年で、もともと三洋電機の金属加工を請け負う2次下請け工場だった。実は千石のある加西市には、後にパナソニックに買収された三洋電機の工場があり企業城下町だったのだ。それゆえ田んぼの中に、中小の工場がポツポツと立ち並ぶ珍しい町並みだ。
当初は2次の下請けだったが、信頼の高さや技術の向上で大手電機メーカーに名が知れ渡ることとなる。今でも得意分野なのがプレス加工だ。鉄板やアルミ、ステンレスや銅、真鍮などあらゆる金属をプレス加工する。しかも他の工場ではプレスで何個もの部品を作り、それを溶接してひとつの部品とするような複雑な形でも、プレス機を何度か通すだけで作ってしまう高い生産技術と経験を持つのが千石なのだ。
いくつもの部品を作って溶接すると、納期は遅く精度もコストも良くない。発注する側にしてみれば、そんな工場に任せるより、千石に任せれば短納期でコストも精度もよくいいこと尽くめなのだ。