しかも千石は、鉄板やアルミ、ステンレスや銅、真鍮などのさまざまな金属を知り尽くした職人集団。曲げ加工はもちろん、鍋のような加工をする“絞り”、燃料が漏れないように2枚鉄板をプレスだけで密着させる“巻締め”などの加工技術もお手の物だ。さらに溶接、塗装、組み立てまでやってのけるモノづくり集団なのだ。
日本エー・アイ・シーが自社ストーブの生産を部品から組み立てまで千石に任せていたのもうなずけるだろう。
「角の丸み」こそが高度な技術の証
アラジンブランドの製品が他社と一線を画して見えるのは「角の丸み」や、1枚の板から複雑な形を作り出す金属加工技術のためだ。他社は手間と精度の兼ね合いで、無難な四角い平坦なデザインになってしまうのだ。
そして千石は時代とともに、灯油やガス製品だけでなく、誰もが知る大手家電メーカーのトースターやストーブ、大手ガス製品メーカーなどのOEMも手がけるようになる。驚くべきは一般に「ジェネリック家電」と呼ばれる安価な製品のOEMまで手がけている点だ。
こうして千石は設計・部品調達・生産・生産技術・最終組み立て工程まで行えるメーカーへと進化した。小ロットの最終組み立てはもちろん、海外にも自社工場をいくつも持っている。もちろん品質管理も日本基準なので、製造を委託するメーカーにとってみれば千石に頼めばワンストップで、箱に入った製品を納品してくれる超優良なOEMのパートナーというワケだ。
千石にとっての「2つのターニングポイント」
千石の大きなターニングポイントは2つある。ひとつは日本エー・アイ・シーの買収でアラジンブランドの石油ストーブを手に入れたタイミングだ。
アラジンの「ブルーフレーム」という対流式のストーブは、約90年前に作られたモデル。なのに未だに1台1台手作りで年間1万台を生産するほどの人気は、石油ファンヒーターのように強制的に空気を送らなくても、灯油が完全燃焼する青い炎で燃え続ける点にある。ベースはやはり金属加工技術と徹底的な作りこみ。
しかし10年ほど前からブルーフレームにも陰りが見え始めた。高気密・高断熱住宅の登場で、暖房は省エネのエアコンに取って代わられてしまった。先の売上げグラフでも、2015年にかけて売り上げが減少しているのが良く分かる。