最近の将棋界は、なんといっても豊島将之竜王と藤井聡太二冠の相次ぐ熱戦、「夏の十二番勝負」に注目が集まっている。1990年生まれの豊島と2002年生まれの藤井は、ちょうど干支が一回り違うが、その両者の間にいる20代半ばの棋士たちは充実期を迎える年齢とされている。当然ながら「打倒2強」への思いは強いだろう。
今回はその世代の一人である梶浦宏孝七段(26)に登場してもらった。竜王戦では2年連続ベスト4入りを果たし、団体戦のABEMAトーナメントでは、エントリートーナメントを勝ち上がってファンを盛り上げた。そんな「カジー」の素顔にスポットを当てたい。
1手に30秒かけたら時間切れ…ABEMAトーナメントは時間との闘いだった
――最近の梶浦さんと言えば、ABEMAトーナメントのエントリーチームにおける奮闘が記憶に新しいです。
梶浦 ABEMAトーナメントは第4回からエントリー枠が加わりましたが、客観的に見ても、いいことだと思います。自力で挑戦できるチャンスがあるのは大きいです。
――率直なところをうかがいますが、ドラフトの時点でご自身が選ばれる可能性についてはどのくらいに考えていましたか。
梶浦 正直、厳しいと思っていました。私は早指し棋戦におけるレーティングが低いですし。
――ABEMAのフィッシャールールは、公式戦の早指し棋戦とはまた違った部分があると思いますが、その辺りはどのようにお考えですか。
梶浦 公式戦では最低でも1手30秒が保証されていますけど、ABEMAで1手30秒も考えると、すぐに時間がなくなってしまいます。第一感ですぐ指さないといけない、切れ負け将棋のような感じですね。30秒とは言わずとも10秒あれば、あからさまな悪手を指す確率は相当に低くなりますが、都成さん(竜馬七段)との一戦ではノータイムでひどい手を指して、直後に痛い一撃を食って負けました。
――まず、チームメンバーを決めるエントリートーナメントを振り返ってみると、いかがでしょう。
梶浦 1発勝負で3連勝できて、ベスト4入りしましたが、そこから日を改めての収録でしたので、まずはこの時点で一区切りでしたね。エントリートーナメントでは「時間を残そう」と思って指していて、実際に残り時間が30秒を切ったことはなかったはずです。
――準決勝の田中悠一五段戦と、決勝の杉本和陽五段戦については?
梶浦 快勝でしたねと言われることもあるのですが、こちらの体感的にはそうでもありません。ちょっと間違えれば逆転される心配は常にあり、実際に一瞬危なかったところもあったはずです。でも相手も時間がないのでとがめられなかったことが幸いしました。